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Tech Biasインタビュー
2025/01/27

差異を並べて味わう《私たちを計量しないために》《バイアス推理カード》|『TECH BIAS -テクノロジーはバイアスを解決できるのか?』:インタビュー

差異を並べて味わう《私たちを計量しないために》《バイアス推理カード》|『TECH BIAS -テクノロジーはバイアスを解決できるのか?』:インタビュー 東京大学とソニーグループ株式会社による「越境的未来共創社会連携講座(通称:Creative Futurists Initiative、以下CFI)」では、8ヶ月間にわたる講座内の実践研究プロジェクトの成果発表として、2024年11月23~25日の3日間、東京大学本郷キャンパスにおいて「Tech Bias —テクノロジーはバイアスを解決できるのか?」展を開催。出展した4グループのみなさんにインタビューを行ないました。今回は、身近な製品設計にも関わる「標準的身体」と「計量(数字で扱うこと)」について捉え直す《私たちを計量しないために》と、バイアスについてオープンに語らうコミュニケーションの仕組みを作る《バイアス推理カード》についてお話を伺いました。(※) 記事中の所属・役職等は取材当時のものTEXT: Nanami Sudo PHOTOGRAPH: KAORI NISHIDA PRODUCTION: VOLOCITEE Inc.目次: 標準の大きさ・形とは何かを疑ってみる 手にまつわる記憶から自分の個性を見つめる ゲームでテクノロジーに潜むバイアスを考察する 標準の大きさ・形とは何かを疑ってみるこちらの作品のテーマは「標準的身体」です。ある製品において想定される「人間の手はこれくらいの大きさや形である」という設定に対して、それがいかにして標準的と言えるのか? という問いを立てました。推論ですが、世界の製品の多くは、おそらく西洋の成人男性の健常者が基準になっていると思います。しかし、西洋の成人男性の健常者の中にもばらつきがありますよね。 ピアノを例に挙げると、1オクターブの幅が165.5mmに規格化されていますが、手の小さい方では、指が届きにくいため弾くことが困難です。メンバーの一人は以前ピアノを習っていたけれど、先生から「手が小さいから無理」と言われて辞めてしまったそうです。しかし、実は音階を保つために、鍵盤のサイズなどの構造が関係しているわけではないんです。ピアノの設計は、長い歴史を持っていて格式高いということも、この規格を固定化してしまっている一つの要因として挙げられると思います。それが今に至るまで、何となく当たり前として受け入れられてきて、意識されてこなかったのかもしれません。モーツァルトら著名な作曲家たちがどんな体格だったのかは正確には分かりませんが、過去の演奏者の多くが男性だったという背景も関係し、ピアノの設計にも西洋の成人男性の平均的な体格が影響しているのではないでしょうか。さらには、ピアノを嗜むことが格式や教養を示すものであり、それが男性に偏っていたのではないかということも推測できます。 また、会場には五本指の軍手も例として掲示しました。3Dプリンターで「手尺1尺=約30.3cm=標準」と設定した手の模型を作成し、そこに軍手をはめてみました。今回展示をしてみて、来場者の方との会話の中で、この形が必ずしも全ての人に合うわけではないことに改めて気づかされました。「指が短いから、手袋をはめると先端が余ってしまい、その瞬間に自分の手が標準とは違うのだと感じる」という話も伺いました。特に指の長さや形状、手の大きさによってはフィットしない場合があります。そもそも五本指を標準とすることについても再考する余地があるように思います。また、今回作成した模型は関節が曲がらないため、これに軍手をはめようとすると非常に難しいことにも気づき、人間の手の動きの自由度や柔軟性についても、当たり前ではないと再認識させられました。 さらに「手袋や衣服の標準は地域や文化によって異なるのではないか」という指摘もありました。今回の展示を通じて、そうした多様性や個々の身体に合わせた製品設計の必要性を実感することができました。これは、身近な道具の設計にも通ずる部分があると思います。多くの人にとって「標準的」とされるサイズで作られているものでも、実際には身体のパーツが大きい人や小さい人、子どもや高齢者にとっては、その設計が負担になってしまうこともあります。まずは「標準」を疑ってみる視点が、私たちの生活をより良くするきっかけになるのではないでしょうか。…
Tech Biasインタビュー
2025/01/27

生成AI×動物×プリクラから表象を再考する《ジェンダライズプリマル:動物鏡像儀式》:『TECH BIAS -テクノロジーはバイアスを解決できるのか?』:インタビュー

生成AI×動物×プリクラから表象を再考する《ジェンダライズプリマル:動物鏡像儀式》:『TECH BIAS -テクノロジーはバイアスを解決できるのか?』:インタビュー 東京大学とソニーグループ株式会社による「越境的未来共創社会連携講座(通称:Creative Futurists Initiative、以下CFI)」では、8ヶ月間にわたる講座内の実践研究プロジェクトの成果発表として、2024年11月23~25日の3日間、東京大学本郷キャンパスにおいて「Tech Bias —テクノロジーはバイアスを解決できるのか?」展を開催。出展した4グループのみなさんにインタビューを行ないました。今回は、プリクラという媒介を通じて、私たちが無意識のうちに認識している動物表象の問題について議論の場を創出する《ジェンダライズプリマル:動物鏡像儀式》についてお話を伺いました。(※) 記事中の所属・役職等は取材当時のものTEXT: Nanami Sudo PHOTOGRAPH: KAORI NISHIDA PRODUCTION: VOLOCITEE Inc.目次: どんな動物になりたい? 文化やメディアによって形成される動物のイメージ 生成AIの不確実性も問題提起に活用 どんな動物になりたい?ーーまずは、今回の作品について教えてください。この作品は、動物に関するジェンダーバイアスをテーマとした「動物になれるプリント機」です。なぜこのようなものを作ったのかというと、「動物表象」に関する問題意識が出発点となっています。動物表象とは、例えば「狼男」や「鶴の恩返し」「犬のお巡りさん」などの物語や童謡、あるいは「ライオンキング」のシンバや「美女と野獣」のビーストなどのキャラクターのような、動物を使った表現全般を指します。これらは物語や商用コンテンツのキャラクターにとって重要な要素ですが、一方で固定のジェンダー観を作り上げる要因にもなっているのではないかと考えています。 例えば、「狼=強い男性」「うさぎ=かわいい女性」といったイメージは、すべて人間が作り上げた物語の産物です。このような表象が、メディアを通じて無意識に再生産されていることが課題だと感じています。そのため、生成AIを活用して「動物になれるプリント機」を作り、これを通じてジェンダーバイアスや動物表象について考えるきっかけを提供したいと思いました。 このプリント機を使うことで全ての問題が解決するわけではありませんが、生成された写真を観察したり、自分が選んだ動物に投影されたイメージを体感したりすることで、新たな議論や気づきが生まれることを期待しています。そして、「なぜ自分はこの動物を選んだのか」「この動物の姿に何を感じるのか」などの問いが生まれたらいいなと考えています。実際に来場者の体験の様子を見ると、動物を選ぶ段階から既にジェンダーバイアスが表れていることが分かります。例えば、うさぎや猫を選ぶ人の多くが女性で、そこには「かわいく撮られたい」という意識が根底にあるようです。 女性的に捉えられがちなウサギや猫、男性的に捉えられがちな狼やライオンにも雌雄があるため、種によってジェンダーを特徴づけるような表現自体が動物への敬意に欠くことなのかもしれません。捉え方の視野を広げると、動物への接し方が変わると思っています。人と動物との関係性を改めて見つめ直すことで、動物を用いた新しく多様な表現がこれから育まれると良いですね。文化やメディアによって形成される動物のイメージ今回私たちは、動物表象とジェンダーに関する調査アンケートも行いました。動物は、古今東西、ギリシャ神話から、ヨーロッパの神王伝説、中国や日本の民話に至るまで、しばしば物語の中で表象の記号として使用され、人間社会の文化に重用されてきました。つまり、動物は自らを語っているのではなく、人間社会を語っているということです。人間社会を語る動物表象は、どのように作られているのでしょうか。例えば、生活の中で人間と動物表象が結びつけられたメディアコンテンツがあります。アニメや漫画、ドキュメンタリーの中で、動物と人間の結びつけ方は、ジェンダーを中心にどう固定されてきたのでしょうか。結論としては、動物が使用される表現においては、ノンバイナリーなものが最も多いです。次に男性的、最後に女性的な表現の順で多く用いられます。そして、女性的な表象で用いられる動物の種はかなり集中していることがわかりました。うさぎなどの小動物がしなやかで柔らかく女性的と見られるのに対し、オオカミやライオンなどの力強いイメージの動物は男性的に表象されることが多いです。中でも興味深い例は、猫です。猫は一般的に室内で過ごし、外にあまり出ないことで知られていますが、その特徴が女性的な表象へ反映されることが多いです。このことから、ジェンダーに関する社会的役割のステレオタイプが、動物表象にも反映されていると考えられます。 一方で、ノンバイナリーの表象に使われる動物は、海洋など多様な環境に生息していて固定のイメージに捉われません。例えば、クラゲやイルカ、ペンギン、コウモリなどです。また、同じ動物の中でも、その年代や種別によって表象が異なる場合もあります。例えば、同じ犬でもドーベルマンやプードルでは異なる表象があったり、馬についても男性的なイメージがある一方で「マイリトルポニー」の少女の象徴や、男性騎手との異性愛的なパートナーとして捉えられる場合には、「ウマ娘」のように女性化された表象も存在します。…
Tech Biasインタビュー
2025/01/25

多様なコミュニケーションのズレを提起する《聴こえないのは誰なのか?》|『TECH BIAS -テクノロジーはバイアスを解決できるのか?』:インタビュー

多様なコミュニケーションのズレを提起する《聴こえないのは誰なのか?》|『TECH BIAS -テクノロジーはバイアスを解決できるのか?』:インタビュー 東京大学とソニーグループ株式会社による「越境的未来共創社会連携講座(通称:Creative Futurists Initiative、以下CFI)」では、8ヶ月間にわたる講座内の実践研究プロジェクトの成果発表として、2024年11月23~25日の3日間、東京大学本郷キャンパスにおいて「Tech Bias —テクノロジーはバイアスを解決できるのか?」展を開催。出展した4グループのみなさんにインタビューを行ないました。今回は、4つのプレゼンテーションを通じて、見落とされがちな「声」や、環境の違いによって起こる誤認識に目を向けた作品《聴こえないのは誰なのか?》について、お話を伺いました。(※) 記事中の所属・役職等は取材当時のものTEXT: Nanami Sudo PHOTOGRAPH: KAORI NISHIDA PRODUCTION: VOLOCITEE Inc. ※本作品については制作者のコンセプト・意図により障害表記としています目次: リモート会議のツールに潜む誤変換 同じ音にも複数の解釈がある 当事者とは誰か? 社会モデルの考え方 テクノロジーの規範に詩で抵抗する 包括的に問いをひらくためのマニフェスト リモート会議のツールに潜む誤変換ーーまずは、この作品を作ったきっかけを教えてください。現代社会では、テクノロジーが便利である一方で、障害(※)を作り出してしまう部分もあるのではないでしょうか。もの作りにおいて、健全な人の体が前提とされることが多いため、障害のある人に対してフレンドリーでない面があり、その障害をさらに助長してしまっていると思います。障害のある人たち自身で対処する方法もありますが、本来は社会全体で取り組むべきではないか、という問題提起をしていくことが必要だと考えています。…
Tech Biasインタビュー
2025/01/24

WebサイトのジェンダーバイアスをAIが評価する《 scored?》|『TECH BIAS -テクノロジーはバイアスを解決できるのか?』:インタビュー

WebサイトのジェンダーバイアスをAIが評価する《 scored?》|『TECH BIAS -テクノロジーはバイアスを解決できるのか?』:インタビュー 東京大学とソニーグループ株式会社による「越境的未来共創社会連携講座(通称:Creative Futurists Initiative、以下CFI)」では、8ヶ月間にわたる講座内の実践研究プロジェクトの成果発表として、2024年11月23~25日の3日間、東京大学本郷キャンパスにおいて「Tech Bias —テクノロジーはバイアスを解決できるのか?」展を開催。出展した4グループのみなさんにインタビューを行ないました。今回は、Webサイトの女/男らしさについてAIに評価させ、そのデータを分析を通じてAIのバイアスを考察しながら、私たちの中に潜む固定観念についても再認識を生むような作品《 scored?》について、お話を伺いました。(※) 記事中の所属・役職等は取材当時のものTEXT: Nanami Sudo PHOTOGRAPH: Kaori Nishida PRODUCTION: VOLOCITEE Inc.目次: 700のWebサイトに潜むバイアスを3種のLLMが解析 AIにもバイアスはある 一覧データが浮き彫りにするそれぞれの違和感 700のWebサイトに潜むバイアスを3種のLLMが解析この作品は、Webサイトの女/男らしさについてAIに評価させ、一覧化することで、そこに内包されたテクノロジーが内包するジェンダーバイアスを視覚化させるという作品です。人類のアウトプットの集積であるAIの評価を分析を通じて、ジェンダー表象のあり方を再考し、日常に浸透するテクノロジーの中に潜む隔たりを体感的に問いかけています。 今回、Webサイトをトピックとして選んだ理由は、非常に幅広く、年代やトピックを問わずに多種多様なものが存在しているからです。世界ではほぼ無限とも言える数のWebサイトが作られており、自主的にも調査しやすい媒体です。また、あるターゲットをもとにしたWebサイトのデザインやアニメーション、構成などは全てコーディングによって作られるため、主観的な要素でもそのコードを通じて客観的に分析できるという利点があります。例えば、フライヤーやポスターのような物理的な媒体では、データへの変換は容易ではないため、そのデザインや内容を分析することは難しいかもしれません。しかし、Webサイトであれば、簡単に膨大なデータを収集でき、かつ先ほど述べたような客観的な分析が可能です。今回の調査では、Webサイトのスクリーンショットなどの画像ではなく、URLをデータとして使用したことで、効率的にデータを集められました。Webサイトの解析は、URLを指定すると、それをAIが認識・解析する形になっています。AIは文字認識や画像認識を通じてデータを処理し、内容やデザイン、ターゲット層の特性を考慮し、私たちの考案したプロンプトを用いて、「女らしさ」「男らしさ」をスコアリングさせました。「スコア」という言葉を使っているのは、展示では表示していませんが、数値データを出させているためです。 今回使用した大規模言語モデル(LLM)は、ChatGPT、Gemini、Perplexityの3つです。この3つのLLMにはそれぞれの特性があり、ChatGPTでは女らしさ/男らしさに対して非常に高いスコア(90点など)が出やすい一方、Geminiは50点から80点程度の範囲内で結果を出す傾向があり、より安定したスコアを示しました。Perplexityはさらにニュートラルな結果を目指しているのが特徴です。…
インタビュー記事_ピックアップ
2024/05/19

越境者が集まるラボを、社会でつくる|筧康明

越境者が集まるラボを、社会でつくる|筧康明 東京大学情報学環とソニーによる越境的未来共創社会連携講座は、社会課題を批評的に捉え、アート・デザイン・⼯学によって創造し、社会と協働できる人材「Creative Futurist」を育成することを目的としています。講座の運営を行う筧康明教授は、これまでアート・デザイン・⼯学にまたがって研究やアーティスト活動を行ってきました。そして東京大学情報学環のラボ「xlab」にはさまざまな「越境者」が集い、探求を進めています。筧教授に、越境的未来共創社会連携講座でどのようなことに取り組むのか、詳しく聞きました。(※) 記事中の所属・役職等は取材当時のものINTERVIEW / TEXT: Akihiko Mori PHOTOGRAPH: Kaori Nishida PRODUCTION: VOLOCITEE Inc.マテリアル・エクスペリエンス・デザインxlabで生まれたこの作品は、物理世界の現象を、計算によって制御したものです。 見た目には奇妙で不思議ですが、この現象自体は、とくに珍しいものではありません。お風呂でもどこでも、自然に生まれているものです。水の上から水滴をそっと注ぐと、水中に泡が生まれます。この泡は、水滴が空気の薄い膜に包まれてできる泡であり、シャボン玉などの泡とは逆の構造をしています。この現象は「アンチバブル」と呼ばれます。 人工的に制御し、小さな水槽に閉じ込めてしまうことで、アンチバブルは物理世界で偶然に生じるときとは異なる表情を見せます。泡が生まれ、形を変えながら、消失していく。その過程は、作り出すことと同時に失われていくこと、その絶妙なバランスの中で成り立っています。これは、自然と人間の関わり方の縮図なのかもしれません。 コンピューティングによって、現実世界の物質の形や色、大きさ、触感、香りを自在に変え、まったく新しいユーザエクスペリエンスをデザインする。そのコンセプトを私は「マテリアル・エクスペリエンス・デザイン」と名づけました。越境者が集まるラボ私は大学の頃は工学部電子情報工学科に所属し、情報関連の分野を学んでいました。プロジェクションマッピングや画像処理、VR(Virtual Reality)の研究に取り組み、人の行動や振る舞いを映像で拡張する研究をしていました。その後、テクノロジーを活用し、現実世界の物質を拡張する、ということに関心を持ちました。パソコンやスマートフォンのディスプレイの中のデジタル空間では、私たちの想像を遥かに超えた、さまざまな表現が可能です。こうした表現が、現実世界に出てきたら? そんな表現はつくることができるのか?  そうして構想したものが、現在マテリアル・エクスペリエンス・デザインとして方法論化を続けているものです。物理環境における物質(マテリアル)とコンピューティングをかけ合わせ、メディアとして利用することで、新しい情報の表現や、相互作用(インタラクション)をデザインの方法によって実現するというコンセプトです。 デザインは見た目を整えることではありません。特定の目的を果たすために、従来は考えられてこなかったやり方で異分野をつなぐことができる方法論なのです。 その後、縁あって東京大学大学院学際情報学府で研究室を持つことになりました。私の研究室「xlab」は、アートと理工の顔を併せ持つラボになりました。美術大学・芸術大学出身者と理工学系の出身者が「既存の枠組みではとらえきれない何か」を探求し続けています。その風景は、いわば「越境者が集まるラボ」です。 メンバーの半分は美大・芸大、もう半分は理工系の大学の出身です。たとえば画家として活動してきた人は、絵画のマテリアル、つまりキャンバスをデジタルファブリケーションによってつくり、新しい表現を探求しています。私のように工学から出発し、情報技術や建築などを通じて表現の領域を広げようとする人もいます。異なるバックグラウンドを持つ人たちが、既存の分野に留まっていては手に負えない問題意識を持ち、自分だけの探求をしに、このラボに集まってくるのです。そしてみな、共通して批評的で、創造的で、そして協調性を持って新しいものを生み出すことができる。少なくともそうしたトレーニングを、このラボでは積み重ねています。 研究のアウトプットも多岐に渡ります。探求の中で見つかった技術を工学における論文としてまとめることもできますし、アート作品をつくり、オーストリア・リンツで毎年開催される、世界的なメディアアートの祭典である「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」で作品を発表する人もいます。xlabで実際に制作された作品『Efficiency of Mutualism』。アルスエレクトロニカでの受賞歴のほか、国内外で多数の展示を行ってきたアーティストとしても活動する滝戸ドリタがxlabでの研究として取り組む。同作品は、植物と共生する微生物、光合成、そして水の電気分解による複数の発電の仕組みを通し、人と自然の関わり方を再考する。現代の「次に作るべきもの」に必要な批評性私のラボに集まる人々が繰り広げる越境的な活動は、何より私自身にとって非常に興味深いものです。何よりも彼ら彼女らは創造性や協調性だけではなく、批評性を持って社会と関わり、新しいものや考え方を次々と生み出していく。このような活動を、さらには思想を、もっと多様な人を巻き込んで実現できないだろうか? 私はずっと考えていました。…