共創の土壌としての多様性|林香里
文理融合の研究と、アートやデザインなどの表現を実践する大学院、情報学環を中心とする東京大学、および「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」を存在意義に掲げるソニーグループが連携し「越境的未来共創社会連携講座」(通称: Creative Futurists Initiative)をスタートさせました。同講座は社会を批判的に読み解き、アートとデザイン、そして工学のアプローチによって問題提起・課題解決を行う人材を育成することを目的としています。
2024年2月22日(木) に東京大学情報学環・福武ホールで開催された同講座の設立記念シンポジウムで、林香里(東京大学 理事・副学長)が閉会の挨拶をしました。
(※) 記事中の所属・役職等は取材当時のもの
TEXT: Akihiko Mori
PHOTOGRAPH: Timothée Lambrecq
PRODUCTION: VOLOCITEE Inc.
北野様を初め、ソニーグループの皆様そして筧先生を初め、親愛なる情報学環の同僚の皆様、本日はCreative Futurist Initiative 越境的未来共創社会連携講座のシンポジウムにご参加いただきまして、そしてここにご来場の皆様も、本当にありがとうございました。
シンポジウムの閉会でございますので私、東京大学理事・副学長として関係者の皆様に感謝の意を表すとともに、この講座の越境的未来について期待を込めて、少々お話しさせていただきます。
私が東京大学の理事・副学長として主に担当しているのは、大学の国際化とキャンパスのダイバーシティインクルージョンの推進です。本日、ソニーの皆様のご登壇のリストなども拝見し、正直ですね、「負けたな」と思いました。ジェンダーや国籍の多様性が反映されているようで、まさにソニーのパワーの源となっているのは、こうした多様性なんだなということを改めて確認いたしました。多様性というのは、残念ながら本学ではまだ足りていません。先ほど申し上げましたように、なかなか進まないというのが現状です。
筧先生をはじめ今日出演した東大のチーム、そして活動と基盤となる情報学環、私の故郷でもありますけれども、これらは均質的な東京大学の環境の中ではかなり健闘しております。田中東子先生を初めとして、女性教員の比率も33%、女性学生の比率も47%半分ほどになっておりますし、留学生の比率も4割ほどとなっています。東京大学の中では、多様性に富む、なかなか面白い研究科でございます。ちなみに東京大学の平均は女性教員が15%、そして女性学生が24%ほどですから、情報学環というのは多様で、いろいろごちゃごちゃしてますけれども、楽しい場所でございます。多様な視点を持って、相互に考え方の違う人たちがいる集団というのは、似たり寄ったりの考え方を持つトップ集団よりも劇的に集合知を発揮する、というのが『多様性の科学』という本を著したマシュー・サイドが様々なケーススタディを検証したときの結論でした。
現代の複雑な課題、貧困や疫病、地球環境破壊、情報汚染などの問題に対処するためには、異なる考え方をする人々と協力し合うことが欠かせません。そうすることによって斬新なアイディアの創出、そして多くの検証に耐えうる強靭な知見を得て、最終的には研究の質の向上にも貢献すると思います。この講座では文理融合に加えて、アートやデザインといった人間のクリエイティブな能力を重視して、それを学問的アプローチとして採り入れていくということが一つの特徴だと理解しています。
こうした異なる分野の統合、そして実践的かつ革新的な解決の導出に不可欠な知見について、情報学環は長年にわたって培ってきております。ソニーグループとの連携を通じて、それらの知見をさらに発展させていく。そんな楽しそうな展望が見えてきました。ちょうど今週、東京大学は「カレッジ・オブ・デザイン」という、学部と修士課程の一貫教育課程を立ち上げることを発表しております。情報学環がこれまで培ってきた実績、そしてこのプロジェクトの成果を、全学にも広げていただければ、と思っております。
そして何より、ソニーグループの方々のご支援・ご協力の上で立ち上げられるこの講座ですが、今日ご登壇をされました皆様、そしてこれから新たにコラボレーションされる皆様、どうか共創の展開をよろしくお願いいたします。
実は、先ほども少し聞いたのですが、均質的なグループで共同作業するときよりも、異質な他者との共同作業の方が、なかなか軋轢もあり、コンフリクトが起きやすく、運営が難しいという社会心理学の研究結果もあります。均質的な人の共同作業というのは、結果はさておき、多様性に富み、異質な人と共同作業をするよりも、満足度も高いという結果もあるそうです。経験的にもそうですよね。でも、今だからこそ私はこの講座を通して、境界線を越えた混成チームで取り組むこと、そしてチームで動くことの楽しさ、そして何より難しさ、そして大切さを、特に若い学生さんと一緒に経験していただきたいと思います。そこから学問の一層の高みと醍醐味に到達する喜びを世界に示してほしいと思います。
これから懇親会が開催されると聞いていますが、その場でもぜひより多くの交流と楽しいコミュニケーションが行われることを願っています。皆様への深い感謝を申し上げますとともに、今後ともこの講座、そして東京大学を、どうかよろしくお願いいたします。