パーソナリティからデザインする人間とロボットの協働|CFD003(後編):Vali Lalioti(ロンドン芸術大学教授)
批評と創造をつなぎ未来を共創する、東京大学×ソニーグループによる連携講座「Creative Futurists Initiative」から派生した、越境しながら活躍するゲストを迎える対話の場「Creative Futurists Dialog」。第3回目のゲストは、ロンドン芸術大学からXRとロボティクス研究に取り組み、およそ30年にわたってクリエイティブとテクノロジーを掛け合わせた活動を生み出してきたVali Lalioti教授。カードを使って自分の強みを表す言葉を認識した後は、グループごとの特性に合った性格をもつロボットを表現するワークを通じて、異分野の人々がともにデザインに取り組むための土壌づくりを体験した。前編はこちら。
(※) 記事中の所属・役職等は取材当時のもの
TEXT: Nanami Sudo
PHOTOGRAPH: Yasuaki Kakehi Laboratory
PRODUCTION: VOLOCITEE Inc.
多様性のあるチームがイノベーションをつくる
Vali Lalioti(以下、Vali):みなさんには、チームの強みに合ったロボットの特徴を5つ選んでもらいました。このエクササイズが実際のロボット開発にどのように役立っているのでしょうか。これは、サイモンというロボットです。グローバルIT企業のIBMによって開発され、宇宙ステーションで初めて使用されました。サイモンは宇宙飛行士の性格に合わせた個性を持つように設計されています。例えば、サイモンとは「どんな音楽が好きですか?」などの会話をすることができ、宇宙飛行士との生活を豊かにしました。
このロボットの性格の背景には心理学の要素が取り入れられており、いわゆる「OCEAN」と呼ばれる5因子モデルに基づいています。さらに、リーダーシップ理論も取り入れられています。西洋ではリーダーシップにおいて、性格を考慮することが一般的です。サイモンは宇宙飛行士とのより良い共同作業のために、このような性格付けがなされています。
性格を身体性を伴う動きで表現する
残りの30分は、少しクイックに作業を進めます。今回はサイモンを作るわけではなく、皆さん自身の性格を踏まえたロボットの性格に合った動きを作ります。選んだ5つの単語をもとに、ロボットの個性を表現してください。たくさんの材料が用意されていますので、これらを使いながら、面白いストップモーションアニメーションを作ってくださいね。今回使用する技法としては、ストップモーションが最も簡単だと思います。
完全なロボットである必要はありません。シンプルな動きでも、私たちに何かを感じさせるきっかけになります。それは、複雑なロボットではない何かとの関わりや感情を生み出すのです。この体験は、後に複雑なロボットやテクノロジーを作る際にも役立つでしょう。
さて、今回は動きを作る方法が2つあります。1つ目は透明な糸を使って、人間の手で物体を動かし、その動きを動画で撮影す方法です。GIFのようなストップモーションアニメーションでの作成を選択した場合はAnimated GIF Makerで一連の写真をアップロードして、簡単に作ることができます。通常のプロトタイピングでは、モーターで動かしたり、センサーを使うこともあります。まずは材料を選ぶときの創造性も見てみたいと思います。動画が撮影できたら、Miroにアップロードしてください。
今日、私たち全員がアーティストであることを発見することができました。また、中には素晴らしいクリエイティブなイノベーターもいました。その創造力に心から感謝します。このワークを行うたびに、私も目を見張るような新たな気づきやインスピレーションを得ることができます。
こちらは、前回のワークで出た簡単なロボットの動きの例です。「調和」「適応」「規律」「データドリブン」「忠実な動き」を表現するロープです。
今日は素晴らしい作品の数々を見ることができました。リモートで制作に参加してくださったみなさんも、クリエイティブな才能を発揮していただきありがとうございます。コーヒーを使ったり、ケーブルがロボットの性格や全体像を表すような興味深いものになっていたりなど、工夫が素晴らしいですね。
さて、この作業プロセスについて振り返る時間を取りたいのですが、ボランティアで誰か感想を話してくれる人はいませんか? この作業は、大学やソニーのような場所で働く皆さんにとって、どのような意味を持ち得るでしょうか?
皆さんに今体験してもらったように、さまざまな分野からのアイデアが飛び交った後は、振り返りとビジョン作成のフェーズになります。少し長めに時間を取るので、これまで行ってきた3つのフェーズについて考えてみましょう。
最初のフェーズでは、少し変わった問い「What personality you want your robot to have?」を投げかけました。今日の活動を振り返ると、まず人間の性格、次にロボットの性格、そして最後に、ロボットの性格を表現する動きを作る、という流れで進めました。クリエイティブな問いに対して、皆さんには素晴らしい身体表現を探究してもらえたと思います。
それでは、みなさんの作品も見ていきたいと思います。どのようなアイデアやプロセスで動きを作ったのか教えてください。
参加者:素朴な質問があります。パーソナリティとは何なのでしょうか?
Vali:ご質問いただきありがとうございます。今日皆さんが行ったことは、自分の強みと、その強みを表すさまざまな言葉を考えることでした。これらすべてのポジティブな人間の強みは、私たちを互いにより異なる存在にする要素であり、さまざまな観点から私たちの性格を定義付けできるものです。
例えば、私は心理学でいうところの、より外向的な性格を持っています。そのため、人々と交流することで、外部からエネルギーを得ることができます。一方で、音楽を演奏したり、作品を作ったりすることで、自分の内面の世界からエネルギーを得る人もいるでしょう。これは私たちがエネルギーを得るための環境や方法が異なるに過ぎません。つまり、パーソナリティの観点から見ると、心理学は、私たち一人ひとりが異なる強みを持つ存在であることを示しており、それをパーソナリティと呼ぶのです。
参加者:ありがとうございます。
Vali:今回は表現に重点を置き、ロボットの表現力豊かな動きを大切にしています。どなたか作ったアニメーションについて共有していただけますか?
参加者:私たちのグループの5つの性格は、分析的、批判的、好奇心旺盛、大胆、そして繊細でした。そして、これらの5人の個性を一度に混ぜ合わせるのはとても難しかったです。そこで、粘土を使って社交的な感性を表現することから始めて、ハサミでものを切り取りながら大胆さ、好奇心を表現するようにそれを爆発させました。分析的、批判的な表現ができたかどうかはわかりません。しかし、私たちはワークを楽しみました。本日はありがとうございました。
参加者:私たちは、親切、整理、創造的、支援的、データドリブンの5つのカードを持っています。まず第一に、親切、支援的なスキルに基づき、円のプロダクトをボトルとピンクのシートで作りました。ピンクのシートは親切と支援的を意味します。その後、複雑な形から単純な形まで、さまざまな形を作っていきました。たとえば、モデルと紙と竹を使うなどです。そして最後に、私たちのチームのゴールであるデータドリブンでクリエイティブな性格を表現するために、ジャンプの動きと星と花で、創造性と支え合いを表しました。
Vali:みなさん、共有してくれてどうもありがとうございます。積極的で創造的な革新を見ることができ、感謝しています。
このワークについてでも、テクノロジーがイノベーションを生み出す方法に関連する他の事柄についてでも、なんでも構いませんので幅広く質問を受け付けたいと思います。
参加者:私たちが使ったカードには、なぜすべてポジティブまたはニュートラルな性格が書かれていて、ネガティブな性格のものはないのでしょうか。
Vali:とても興味深い質問ですね。なぜかというと、ポジティブな強みでも、それが行き過ぎると、ネガティブな側面にもなり得るからです。ですから、どんなポジティブな特性も、その強みが度を超えると弱点になってしまうことがよくあります。しかし、グループでこのゲームをプレイすると、自分たちの強みをいかに最大限引き出し協力できるかが重要になります。だからこそ、あえてポジティブな言葉しかないのです。
ロボットならではの個性を楽しむ
参加者:ロボット工学の分野では「不気味の谷効果」、つまりロボットが人間と非常に似ていて、それが一定のしきい値を超えると、人々は恐れを感じる事象がありますよね。私が尋ねたいのは、特性や性格というのはおそらく人間的なものであるという時に、人間に類似しているものとしていないものの間で、どのようにバランスを保つことができるのでしょうか?
Vali:素晴らしい質問ですね。実は、これこそが私が日本で研究をしている理由です。これは大きな議論を呼ぶことになりますが、つまり、今日ここで取り組んだように、人間的な強みを使ってロボットを擬人化する中で、どのようにバランスをとるかがポイントです。そこで、人間の強みを表す言葉からロボットを表現したわけですが、それで必ずしも人間を再現しようとする必要はありません。
私の経験では、日本では人間に取って代わるような賢いロボットを作ろうとしていません。一方で、西洋では人間を代替するような方向性が強いです。その結果、あまりにも知的で人間に似たヒューマノイドを作ってしまうことで、不気味の谷へと近づき、仲間意識ではなく恐怖を生み出してしまっています。
そして、あなたが使った素材に人間的な特徴がない理由の一つは、私たちの頭の中にある既存のロボットのイメージを超えて遊ぶことができるようにするためです。通常、西洋では、ロボットについて話すとき、人間のように見えるかどうかが重要視されると思います。私はその固定概念を壊したかったのです。そして、私の研究で述べているように、現在のロボットの設計方法に捉われず、異なる素材や形態、さまざまな動きを持つロボットを考えることが重要だと思います。
だからといって、ヒューマノイドが悪いというわけではありません。誤解しないでほしいのは、ヒューマノイドを使うことも非常に重要なことです。そして、日本にはその素晴らしい例があります。例えば、ASIMOが挙げられます。彼は既に引退してしまいましたが、幸運にも、私はASIMOのパフォーマンスを見学する機会があり、それは素晴らしかったです。しかし、不気味の谷効果が生じる理由の一つは、ロボットが人間に取って代わるという考えによるものです。そして、それが人々へロボットへの恐怖心を抱かせる要因だと思います。
異なる強みの結集がインクルーシブなデザインづくりへ
参加者:まず、このようなレクチャーとワークショップの機会をいただき、誠にありがとうございます。アクセシビリティに関する機能について質問があります。私は、インクルーシブなプロセス設計にとても興味があります。特にテクノロジーやアートへの貢献において、インクルーシブデザインに最も重要な考え方は何だと思いますか?
Vali:あなたの取り組むトピックに称賛の意を示したいです。アクセシビリティの包括性は私たちの社会にとって非常に重要ですが、取り組むことは必ずしも簡単ではない問題なので、あなたは素晴らしい働きをしていると思います。私が言いたいのは、私たちは、世界中のコミュニティと一緒に働き、デザインできる方法論を模索しているということです。そして、私は科学者としても、教授としても専門家であるため、時には難しいこともありますが、私たちがコミュニティと協力するときは、そのレベルに合わせて協力する必要があります。
ワークで使ったカードやツールは、私たち全員が何か重要なものを持ち寄っていることの理解を助けるでしょう。私たち全員がそれぞれの強みをデザインやエクササイズ、イノベーション、そしてコミュニティに持ち込むためのものです。
あなたがデザインしたい共同設計や共創などの現場に、先ほど行ったような協調的なデザイン手法を取り入れてみてください。あなたの研究と仕事を応援します。あなたがデザインしたい人たちを巻き込み、一緒にデザインし、まさに共創をしていくのです。
どなたか、自分自身のクリエイションについて簡単に説明していただければ、制約の中での作品制作の取り組みをご紹介したいと思います。
参加者:チャットで書いたように、オンラインでの共同作業は本当に大変でした。相手のジェスチャーや物理的な素材などがわからないので、Miroのボード上で協力することに決めました。これは各フレームのプロセスのようなもので、最後にGIFを作りました。
Vali:どうもありがとう。オンラインでこのようなマネジメントを行うグループができたのは素晴らしいことだと思います。まるで皆さんが教室にいるかのように、よりアクティブに、スペシャルにデザインされたものでした。
そして、ハイブリッドな状況でのインクルーシビリティについて話すと、このようなアクティブなものづくりのワークショップを実際に管理する新しい方法を考え出すことが非常に重要だと思います。そして、これはロンドン芸術大学にとっても、他の多くの芸術大学やデザインの大学にとっても、本当に難しいことだと思います。
なぜなら、VRを使って教育問題を解決できるのではないか、と考えるかもしれないからです。しかし、身体と素材を使って表現する必要がある場合、それは間違いなく挑戦となります。そのため、この分野でのイノベーションは、VRやXRを超えたものであることは間違いありませんし、皆さんも挑戦したいことだと思います。
VRは素晴らしいツールですが、ヘッドセットを長時間装着することはあまり良くありません。私が30年前にVRを使って仕事をしていたとき、私たちはプロジェクションベースの部屋にいたので、実際には同じ空間を共有していました。LEDディスプレイとLEDルームの価格がもう少し下がって手に入りやすくなれば、みなさんもそのような場所にアクセスすることができるようになると思います。これは私たちがオンラインでお互いに離れているときに、協力的な方法でイノベーションを起こすことができる1つの方法かもしれません。この分野は、間違いなく近い将来に何らかのイノベーションを生み出すはずです。
参加者:今日は、AIやロボット工学のためだけではなく、チームビルディングのようなワークでとても楽しめました。今日のCFDの参加者には、研究者やプロダクト開発者の方が多くいます。このワークショップを商品開発や研究に活用したいとき、例えばカメラやテレビ、オーディオなどの性格を考えるためにはどうすればよいでしょうか? または、そのようなワークショップを経験したことはありますか?
Vali:素晴らしいアイデアですね。ありがとうございます。一緒に取り組んで、方法を考え出すのが楽しみです。いくつかのアイデアを持っていますが、音声だけなのか写真だけなのか、特定のメディアに対してはあまりやったことがありません。ソニーの皆さんと一緒にこのようなワークショップを行うことをお手伝いする機会があれば嬉しいです。今日教室でやったことが、実際のみなさんの仕事や、別のテクノロジーへの応用とのつながりが見えてきたことを非常にうれしく思います。
アート×テクノロジーの異分野を越境する提案とは
オンラインの参加者:研究プロジェクトがどれほど有用であるかを示すのが難しいときに、アートとテクノロジーの提案を書くとき、あなたが最も気にするポイントは何ですか?
Vali:まさに核心を突かれましたね。イギリスには2つの独立した資金助成機関があります。一つは芸術と人文科学、もう一つは科学と工学を助成しています。クリエイティブ・コンピューティング機関のような、ちょうどその間にあるような機関にとっては、芸術と人文科学の両方の資金に申請する必要があります。つまり、両方に応用できるということですが、芸術と人文科学には、それがどのように社会をより良くするのかを示す必要があり、科学には、それをどのように行うのか、なぜそれが今までになく、新しく革新的であるのかというようなすべての技術的な詳細を示さなければなりません。
結論を言うと、倍の労力をかけなければならないという大変さがあります。科学系の人々は、ロボットが社会に必ずしも影響を与えるわけではないと考えていて、私たちが芸術的要素を加味する必要があるからです。しかし、芸術的要素が強すぎると、助成を却下される可能性もあります。では、解決策は何でしょうか? まだ模索中なので、私も答えを持っているわけではありませんが、資金援助を受けているので、何かしら正しいことをしているはずです。
重要なのは、提案書を書く際の基準です。科学資金に焦点を当てた提案から芸術的なものに変換し、相互に関連させる必要があります。教育だけでなく、助成団体も私たちを分断しています。だから、政策立案者と協力して、このようなものを統合する必要があると思います。少なくともイギリスでは、申請プロセスが両方同じになりました。少しは楽になりましたが、それでもまだ多くの課題が残っています。成功することもあれば、失敗することもあります。
今日行ったことは一見役に立たないように見えるかもしれませんが、ご存知のように、このエクササイズの中で解決策を見つけようとする、冗長な方法です。
しかし、革新的な情報を生み出すための洞察力と質問を生み出すことで、考え方を柔軟にし、流れを生み出すことが重要です。芸術が役に立つ理由を説明する際、なぜこれがロボットにつながるのか、具体的に示す必要があります。今回の場合は、幸福感や健康的な老化のためにより良い関わり合いをもたらすロボットです。
提案書の作成に成功するのも、このようなことをしている時です。少し長くなりましたが、今日の仕事と密接に関係しています。芸術は時間の無駄にはならないからです。解決策に直接取り組まなくても、正しい方向を示してくれる問いを見つけることができます。
皆さん、ありがとうございました。特にオンラインの方々、積極的に参加してくださって感謝します。アプリやツールによって、単なるレクチャーではなく、教室にいるような感覚を少しでも味わっていただけていたら幸いです。
筧先生にもお礼を言いたいと思います。お招きくださったソニーの方々、そして写真撮影や、機材の用意、技術面でのサポートをしていただいた筧先生研究室の素晴らしいチームに感謝したいと思います。このようなことを成し遂げるには、チームが必要です。イノベーションを起こすにもチームが必要です。ですから、みなさんもチームの一員となり、人々と協力して素晴らしい製品やサービスを生み出すことを楽しんでください。ありがとうございました。
筧康明:来年も、Valiさんの活発な活動と素晴らしい作品づくりを期待しています。前回のCFDに参加された方は、人間研究の前段階である方法論を体験していただきましたが、今回は別の考え方や方法論を体験していただきました。このようなハイブリッドなアプローチのためには、複数のスキルやマインドセットを習得することが非常に重要です。今後Valiさんと、新たなコラボレーションや、コミュニケーションが継続的に生まれることを願っています。最後に大きな拍手をお願いします。
次回のゲストは東海大学の中村寛教授です。デザイン分野も担当されているので、それについての話題も提供していただけると思います。それでは、皆さんにまたお会いできることを楽しみにしています。どうもありがとうございました。