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行動し、人間の想像を拡張する

筧:ソニーグループ株式会社 執行役専務兼CTOの北野宏明様から基調講演をいただきます。北野様は、多様な事業から成るソニーグループのR&Dを指揮され、株式会社ソニーリサーチ代表取締役CEOおよび株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)の代表取締役社長も務められています。カーネギーメロン大学で大規模データ駆動型AIシステムを超並列計算モデルで構築する研究に取り組み、国際人工知能学会のComputers and Thought Awardを受賞され、ソニーCSLおよびカリフォルニア工科大学での研究を通じて、生物学とシステム科学を統合し、「システムズバイオロジー」を提唱されました。領域越境的なパイオニアで革新的な研究者であり、アーティストとしても活躍されています。後ほど登壇いただく山中先生とも共同研究をされました。

北野:ありがとうございます。北野です。今日は東大とソニーの連携プログラムにちなんで、越境する話をしてみようと思います。Act Beyond Bordersというタイトルですが、これはソニーCSLのスローガンで、日本語では「越境し行動する研究所」としています。ただ、越境して遭難する人や、越境してうちのめされて帰ってくる人もいるので、それなりに覚悟を持って越境する必要があるとは思ってます。

まず、この画像を見ていただきます。これどこだかわかる人いらっしゃいますか? 今までに分かったひとが、1人だけいます。その人はここに行ったことがある人です。

この場所が30分後にこうなります。

昼間はこうなります。アラビア半島の砂漠の真ん中です。ドバイから中の方に車で1時間ぐらい行ったところです。砂漠っていうと、非常にドライで暑いので水分って全然ないと思うでしょう。

ところが、見ていただいているように、日の出後ぐらいにはものすごく濃い霧がずっとこのアラビア半島を覆うんです。なぜかというと、太陽が上がってくると、海の方から水分が蒸発し、それが砂漠の中の方に広がるからです。

大体1メートルぐらいの高さ、眼の前は視界は3メートルから5メートルの間ぐらいまでになります。本当に先が見えないほどの霧が毎朝出てきます。なので、木もあるし、草もあるし、こうした大型哺乳動物も棲むことができるんですね。

これも、行ってみないとわからない。ネットで検索すれば「こういう話だ」と出てきますが、砂漠だと思って、朝起きて(自分で)見て、「なんだこの霧は?」となります。ここアラビア半島だけではなく、世界中の砂漠で海に近いところは大体こんな感じです。アタカマ砂漠はものすごくドライだし、海から遠いのでこういうことは多分起きないんじゃないかと思われます。ただ近年は起きないわけではない、ということもわかってきましたけど。

こうしたことに気が付いて、ナミブ砂漠のカブトムシがどうやって水を摂取しているかという研究をした先生がいます。それはカブトムシのあの羽のところがディンプル構造になっていて、撥水性と親水性(を持つ部分)が交互にあるんですね。交互にあると、小さな粒が、親水性のところについて、それが大きな玉になってコロコロっと落ちたときに、次にくるところは撥水性なので、染み込まず、コロコロと(羽の上を転がってきたものを)吸うんですよ(これによってナビブ砂漠のカブトムシは水分を摂取する)。

霧からどうやって水分を摂るかということが生物の原理から分かったことで、(ここから発展させて)ナノ構造のシートを作ったMITの先生がいました。霧はあるけれど水源がないところにそのシートを設置し、下にバケツを置くことで、水分供給を行うことが可能になる。そういうNGOがあります。

自然の発見からサイエンスを通じて、それによってテクノロジーに持って行って、NGOがアクションをする。そういったリンクが起きてるんです。この実際の発見、またはそこからのイマジネーションでいろんなことができている。こういうことたくさんあると思います。人間のイマジネーションって素晴らしいと私は思うんですが、限界もあると思います。そういうところを、動くことによって発見できるんじゃないかなと思います。

これはですね、グリーンランドです。グリーンランドから北極圏へプロペラ機で2時間ぐらい、北極の方に延々と飛んだところです。冬はちょっとさすがに行くのは厳しいので、夏に行ったんですが、こんな感じです。

実際にこういうところ。氷山なんですけど、これちょっと大きくないところの写真です。これまでグリーンランドは、冬は結氷して漁はできませんでした。食糧源は、ハンターが捕獲したアザラシなどでした。

しかし温暖化によって何が起きてるかというと、氷河が不安定になって、ハンターの人が、狩猟ができないんです。危なくて氷河に近づけなくなってしまいました。逆に冬は結氷をしなくなったので、冬でも漁ができるようになりました。(この写真の船は)ちょっと大きめですが、小さな船があって、魚を獲ることができて一年中漁ができる。温暖化といっても、やはり勝者と敗者がいて、誰が得して誰が損するかというのは現場に行ってみないとわからない。やっぱり動いて発見するということがすごく重要なんじゃないかと思います。

これはヴェネツィアビエンナーレ。私とロボットデザイナーの松井龍哉さんが招待アーティストになって、ビエンナーレの日本館ではなく、メインパビリオンの割とど真ん中に場所をもらって、展示をしました。

ビエンナーレのときに、これはPINOというヒューマノイドですが、オープニングの日は歩かせていました。6ヶ月あるので、毎日歩かせるのは少し無理なので、どうしようかと考えました。2日目からは動かない展示にしようということで、頭のところに入っているカメラで撮影した風景を、翌日全部台座のところに入っているプロジェクターでプロジェクションするというインスタレーションにしました。今だと、生成AIをつかえばいろんな映像を出せる思いますが、当時はまだできないので、撮ったものをそのままでリプレイする形にしました。これをやることによって、私は初めてアートのビエンナーレの世界を体験することができました。いろんな発見がありました。

その翌年、MoMAのWorkspheresという展示会に招待アーティストで呼ばれました。テーマとしてはロボットデザイナーの未来のオフィスです。PINOがやってきて、そこにあるのはaiboのプロトタイプなんですよ。これは昔のMoMAの一番最後のエキシビションに呼んでいただいて、展示をしたりしました。そのときにMoMAで展示をする、というプロセスの面白さも、難しさもあることがわかりました。このとき私はそのロボットをいくつかデザイナーの方と作っていました。PINOは松井龍也さんです。彼は丹下先生の建築事務所にいて、フランスでグラフィックアートなどを勉強し、それからロボットをつくり始めた。

それと同時に、この後にお話ししていただける山中先生とMorphという(ロボットを)異なるチームでデザインしました。山中先生は車のデザインやインダストリアルデザインをしているので、また違うデザインのアプローチなんですね。松井さんは建築事務所にいたという背景から、空間と物語から(デザインに)入ります。山中先生は形から入っていき、ディテールのところに入っていきます。だから同じアーティストやクリエイターの方でも、その人のバックグラウンドや関心によって全く違うアプローチになるということを、私は体験しました。その後もフェラーリをデザインした奥山(清行)さんともロボットを作らせていただきました。本当に人によって違うということを体験しました。

さらに、仙台メディアテークにも関わりました。これは伊東豊雄さんの設計ですが、伊東さんからお声がけいただいて、中の情報系やプログラム、アクティビティなどの設計を担当させていただきました。仙台メディアテークは、建築とメディアとは何かというお題でコンペが行われて、国際コンペで伊東先生がとりました。ここで建築の人と情報系の人の認識のギャップがすごくあることに気がつきました。最先端の情報システムを入れたいということでしたが、工期で5年たつと建築が出来た瞬間に、ITシステムはすぐに古びてしまうんです。建築というのは、最低50年です。一般家庭の木造でも100年、200年、300年もつこともあります。都市だったら1000年もつこともあります。一方の情報機器は半年後にはもう古くなる。例えば今のH100のGPUは数年後にいくらで売れるんだという話になるわけです。ライフサイクルが全く違うんです。

私がいろんな議論をした結果、提案したのが、何も(情報システム)を入れずにフラットにしましょう、というものでした。何か(情報機器を)入れた瞬間に陳腐化するからです。どんな情報システムでも、アップグレードできるような形にするべきだと考え、フラットな構造で、情報システムのダクトだけはたくさんある、ということになりました。

これはほぼ同時期に山本理顕さんと一緒に進めていた、公立はこだて未来大学です。僕はこのときはどちらかというと施主側でした。公立はこだて未来大学の設立委員会のメンバーでした。どういう建築にするかということでコンペを行い、山本理顕さんのコンセプトでいこうということになりました。公立はこだて未来大学は複雑系科学科とメディアアーキテクチャが中心です。学際ですよね。越境するっていうことをメインにしているので、分野の仕切りであるとか、研究室の仕切りは全部なくしたいということで、ひたすら壁を取り払うということをやりました。

その結果、何が起きたかというと、これです。壁がないのです。ひたすら大きな空間があり、ここでみんなで授業したり、アクティビティをすることになっています。つまり越境するということを建築に落とし込んでいきました。大空間なので、構造の担当の人や設計担当の人はすごく頑張ったと思いますが、こういう場所ができました。これは非常に成功した例じゃないかなと思います。ぜひ機会があれば、ぜひ見に行っていただければと思います。

越境し、行動する研究所・ソニーCSL

こういったことをやりながら自分の研究としては人工知能やロボティクスをやっていました。どうすればこれらの研究をもっとも加速できるかを考えたときに、世界中の研究者が参加できるようなイベントをやることを着想しました。つまりプロジェクト型・コンペティション型の研究というのを試してみるということです。そういった事例もあまりなかったので、やろうと思いました。例えばロボコンはすでにありましたが、あれは趣味の世界になるので、研究としてコンペティションをやってみるという挑戦として、ロボカップをつくりました。

これが第1回のときの映像です。今は、壁などはなくてもっと大きいフィールドです。当時は壁が卓球台3×3の9ぐらいの大きさにしています。壁も白くないと駄目でした。後ろに背景があると、ロボットがボールを認識できない時代ですから。こちらが非常に貴重な第1回のロボカップの映像です。今はもうロボカップは世界中で毎年3000人ほどの研究者が集まります。教育リーグもあります。教育リーグは、25万人という、非常に多くの子供たちがロボティクスやプログラミングなど、初期のAIなどを勉強してもらうようなイベントになっています。

これが一番最初です。最初からインターナショナルコミュニティを作って、第1回目を名古屋で実施しました。これは、いろいろなところで展開しました。たとえば、ここからのスピンアウトで倉庫の物流を自動化する会社がアメリカで作られました。「Kiva Systems」です。その5年後にアマゾンに買収されまして、「アマゾンロボティクス」になりました。今の倉庫の物流の、全く新しいパラダイムは、ロボカップをやっていた研究者によってつくられました。ラファエロ・アンドレア(Raffaello D’Andrea) とピーター・ワーマン(Peter Wurman)が中心のチームです。彼らに加えて物流の専門家のビジネスマンがいて、その3人が創業したのが、Amazonロボティクスになり、今の倉庫物流のパラダイムを変えているのです。ロボカップからでてきたのはとても嬉しいことだと思います。

ロボカップはファンドレイズが必要でした。イベントには多額のお金がかかります。参加料だけでは成り立ちません。そこでいろんな企業に協賛を求めました。初期はソニーやテックカンパニー数社にサポートしていただいたんですけど、どうしてもテックカンパニーってアップダウンが激しいんです。安定的にスポンサーしていただける会社が欲しかったので、私はルイ・ヴィトンのフランスの本社に行きお願いをしました。

ルイ・ヴィトンは国際ヨットレースの「アメリカスカップ」のスポンサーもやってます。さらにはクラシックカーのスポーツもやっています。ロボカップのスポンサーもぜひお願いしたいということで、結果としてOKをいただいたのですが、まずお願いするときにヨットレースのアメリカスカップに参加している社長のところに行きました。アメリカスカップご招待いただいて。これはバレンシアで開催された時ですが、まだ船が空を飛んでいない時代です。

そこでまた違う発見があったのです。こうしたイベントは必ずチャリティーのイベントがあります。かなり大きなお金が寄付され、途上国の子供たちのためにと、チャリティーが行われます。ところがそのとき気がついたのは、全然自分は途上国のことがわかっていないということでした。このお金がどう使われるのかというリアリティを、全然知らないということに気がついたんです。そのときは、正直言ってあまり自分はアクションをしませんでした。

それからしばらくしてから、先ほどご紹介あったように、私はシステムズバイオロジーという分野を提唱していたんですね。ノーベル財団がシステムズバイオロジーという分野で、ノーベルシンポジウムという開くということで、スウェーデンに呼ばれました。私が提唱した分野ですから、ノーベル財団がシンポジウムを開くぐらいの分野として認知されたんだな、と思うと非常に嬉しかったです。もちろんノーベル財団が行うシンポジウムなので、参加者は気合を入れて、すごくレベルの高い研究のプレゼンテーションをしました。同じ週にスウェーデンから車で2時間ほど北に行ったところにある、大きなテントで行われたタルバーグフォーラムがありました。しかし、タルバーグフォーラムに行くと全く様相が違っていて、世界中飛び回って、緑化や貧困、医療に関連した課題を解決している人々がたくさんいて、ものすごい熱量だったんです。自分はもちろん研究者としていろんな研究をやっていて、それが最終的には役に立つというふうに思ってやっていました。しかしこの時、目の前でどんどん(実際の状況を)変えていっている人を目の当たりにしたのです。自分の研究、これからどういうふうにするべきかな? と考えました。もちろんサイエイティフィックなリサーチは大切だけど、それだけではなくて、やっぱりもっと世の中にインパクトを与えるようなアクションも起こしたいと思ったんです。

それで実際に、自分で見たいと思い、いろんなところへ行きました。最近ですが、インドのジャイプールの方の村です。また違う風景が見えます。

そこでソニーCSLの仲間といろいろ議論をして、「やっぱりそういうことをやろう」、「そういうことに対しアクションを取ろう」と、いわゆるグローバルアジェンダに対して貢献できるに違いないということで、ソニーCSLのスローガンとして「Act Beyond Borders」、日本語では「越境し行動する研究所」としました。

(ソニーCSLでは)たとえば先ほどシッピーさんからもあった「シネコカルチャー」もそうだし、遠藤さんは義足の研究をやっていたりします。または、オープンエナジーシステムという分散型エネルギーシステムの研究をやっていたり。いろんな研究をやっています。もちろん環境や、サステナビリティやグローバルアジェンダの研究だけをしているわけではありません。たとえば音楽の研究や、AIの研究も行っていますが、最新のテクノロジーを使う、または全く新しい考えで世の中をよくするということを世界規模でできないかということを志向しています。

ソニーCSLというのは、大きな研究所ではありません。(研究員は)30人ほどしかいないのです。東京とパリと京都とローマに研究所があります。あとは、世界中でいろいろ動き回っているトランスバウンダリーグループに属する人も何人かいます。この小さな規模で何ができるか。「とにかく1人で行って世界変えてこい」なんです。

それで最近ちょっとトライアルで求人出していますが、今までほとんど人を募集したことなかったんです。理由としては、私たちが解こうとしてる問題はすごく難しい問題だからです。どこから解いていいかわからない、または何を解くべきかも実はわからないかもしれないんです。一般に言われることではなく、違う問題を解かなければいけないかもしれない。なのでソニーCSLは募集をかけていないけど、「きっとそこにチャンスがあるだろう」ということに気がついて、見えないドアを自分で見つけて開けてくれる人が欲しいんです。だから募集をしたことはないんです。最近ちょっと変えてみました。それでどういうふうになっているかというと、良い人も来てくれているので、いろんなやり方を今試しているところです。そういう研究所なんです。30人で何ができるかというと、正直言って、自分たちだけでできることは限られます。

なので、今のモットーは「Global Influence Projection」ということです。Influenceはたった1人でもできるんですよね。だから30人で世の中変えるんだったら、 Global Influence Projectionと言ってますけど、影響力をもつこと、新しいアイディアで、一緒にやりたいという仲間を増やしていって、会社を動かす、人を動かす、国を動かすということをやる以外には多分ないんです。それをやっていこうということで、Global Influence Projectionということをモットーにしてみんな活躍しています。

同時に、それに適応した組織の形って一体何かな、ということで議論しているのDispersive Organization。光のディスパージョンというのは、白い光が入ると、プリズムで虹が出てくるものです。一つのことを見たときに、いろんな色が見える、つまり多様な見方ができるということです。そうした組織でありたいということを、ディスパージョンとして表現しています。もうひとつは、化学におけるディスパージョンです。いろんな物質があったときに、一つの物質/液体が違う物質の中にずっと浸透していくんです。これが化学におけるディスパージョン。私たちが影響力を持つためには、多様な見方ができていろんな組織やいろんな場所に浸透していって、私たちが理念として掲げるものに共感し、一緒に世の中を動かしていく人々をたくさん見つけるということが重要になってくる。私たちの組織形態もそれができるような組織にしようということで、Dispersive Organizationを掲げてます。こんなこと言ってる組織が今までほとんどないので、ほとんど試行錯誤しながらやっています。

もうひとつは、全然違う組織をソニーで作っています。ソニーAIというものです。ソニーCSLはどちらかというと、人類の未来社会、最後にそういう大きなことやったら、多分ソニーも何かやれるだろうというもの。逆にソニーAIは、ソニーの未来の戦略やビジネスを通じた世の中への貢献をするためにつくりました。特にAIが重要なので、AIに特化した組織としました。

アメリカ、ヨーロッパのチューリヒとバルセロナ、インド、東京に拠点があります。東京でも、世界中から人が来てくれているので、日本人の比率は5%ぐらいです。こういう人々が参加してます。

Sony AIの成果で一番わかりやすいのは、レーシングゲームの『グランツーリスモ』向けのAIです。グランツーリスモにAIエージェントを作って、スーパーヒューマンの能力、つまり人間が誰も勝てないようなAIエージェントを作るというものです。グランツーリスモは非常に正確なドライビングシミュレーターなので、空力も全部入ってますから、リアルタイムで本当のビークルダイナミクス、車体特性とかも入れてそれでオーバーテイクしたりとか、ブロッキングなども全部ありますから、こうした能力で人間を上回るエージェントを作れないかというチャレンジをしたんです。それで実際に成功して、これはNatureの表紙にもなりました。その後にプレイステーションのグランツーリスモに実際そのエージェントを載せました。

 

去年の2月・3月にこのエージェント、Natureに出したときのスーパーヒューマンドライバーを実際6週間ぐらい載せてたんです。これ、ゲームとしては難しいですよ。誰も勝てないです。もうほぼ、楽しい話にならない。どうしたかというと当然それ最初からわかってるんで、ドライバーの能力にアダプトするエージェント(GTソフィー)の研究をしています。それが今のグランツーリスモに入ってます。去年の10月のアップデートから「GTソフィー」がグランツーリスモに定常的に使われていて、今350の車と、8つのサーキットかな、どんどんアップデートで増えて、全ての車全てのサーキットっていうのをやろうとしてるわけですけど。これはドライバーのスキルレベルに合わせているので、ドライビングして楽しいと。

研究の方、今大学で話をしているので、研究の話をちょっとしたいと思います。多分研究っていくつかやり方があるんですけど、僕はよくムーンショット型の研究をします。ロボカップもそうですし、今のGTソフィーもスーパーヒューマンエージェントを作るという意味では、目標を決めてそれに対して全て投入するものです。もうひとつはスターシーカー型、つまり自分の好奇心で面白い星をみつけるという形ですね。「これ面白いから調べてみよう」から新しいことが起きるかもしれないというものです。全然違うやり方です。研究の仕方とか、どんな期間でやるかなどが全然違うので混同しない方がいいと思っていますが、私自身はやっぱりいろんな研究所や大学で研究したことがあります。

カーネギーメロン大学、アメリカのピッツバーグにあるところで、ここでコンピュータサイエンス、大規模AI並列システムを作っていました。ここはもうほぼ世界最大で、ほぼ最高レベルのコンピュータサイエンスなので、もうフルスタックですね。チップから上まで全部大学の中で作れます。大学の研究者自身の研究成果を使ったシステムで毎日研究するっていうことを体験しました。

その後バイオロジーの研究したときにカリフォルニア工科大学に行って、ここで実際ラボを持って制御理論の人とバイオロジーの人と組んで、システムバイオロジーの最初の概念をここで作っていました。今は沖縄ですね。OISTに研究室を持ってここも新しい試みでいろんなことやってます。OISTでやっているのは、AIサイエンティストを作ることです。

今私は「ノーベルチューニングチャレンジ」という新しいグランドチャレンジを提唱しています。これはAIサイエンティストを作って、ノーベル賞クラスの発見を自律的に行うものです。そのときに、そのAIサイエンティストは人間のサイエンティストと同じようになって区別がつかなくてチューリングテストをパスするのか、全く違うタイプの知性を示すことによって、人間型の知性とAIサイエンス型の知性が共存する世界になるのか、ということを考えています。ノーベルの部分はチャレンジです。チューリングはクエスチョンです。チューリングテストをパスするような形になるのか、全然違うけどすごい知性を私たちは見ることになるのかという、そういうことをやってます。

結局、Automating Scientific Discovery at Scaleということをやろうと思っています。それで例えば、何を発見するかっていう点では、いろいろやっています。これ私だけやっているプロジェクトではなくて世界中でやっているので、いろんなチームで一緒になってやってます。

私個人は、バイオロジーとしては老化に興味があります。老化・死っていうと、逃れられないように見えるんですけど、ベニクラゲって実際に死なない生物なんです。あとはハダカデバネズミって老化しないです。老化っていうのは年を取ると死ぬ確率が高くなったりするんですが、そうではなくてフラット。ベニクラゲが年を取るとポリプになって、それからもう1回再生するといったようにずっと繰り返すんですね。このメカニズムが、非常に面白いだろうと思います。また、人間の老化の研究をやってましたから、そこの新しいメカニズムと制御方法も研究したいなと思っています。そのためには、やっぱりAIを作り、もっとパワフルな研究をしたいと思っています。

最後のスライドになりますが、これはEarth Riseという非常に有名な映像です。これを見たときに私たちの人類のperceptionって変わったわけですよね。初めて地球を外から見た。月の上から地球が上がってくるのを見るというときに、コンセプトが変わり、パラダイムが変わっていったのです。やはりサイエンスの研究も、大学での研究も同じですが、いろんな新しいことをチャレンジできるときに、非常に大きなインパクトを与えるのは、人の見方、世の中の見方が変わっていくようなことです。いわゆるパラダイムチェンジになるようなことができることが非常に面白く、価値のあることだと思います。いろんなところに行って、いろんな分野を経験して、いろんな体験をして、酷い目にもあってそこからつかみ取ってくるものなんじゃないかな、というふうに思います。

以上で私の話を終わりにしたいと思います。ありがとうございました。