ソニーが取り組むサステナビリティとインクーシブデザイン|シッピー光
文理融合の研究と、アートやデザインなどの表現を実践する大学院、情報学環を中心とする東京大学、および「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」を存在意義に掲げるソニーグループが連携し「越境的未来共創社会連携講座」(通称: Creative Futurists Initiative)をスタートさせました。同講座は社会を批判的に読み解き、アートとデザイン、そして工学のアプローチによって問題提起・課題解決を行う人材を育成することを目的としています。
2024年2月22日(木) に東京大学情報学環・福武ホールで開催された同講座の設立記念シンポジウムで、シッピー光(ソニーグループ株式会社 サステナビリティ推進部 部門長)が関連活動の紹介をしました。
(※) 記事中の所属・役職等は取材当時のもの
TEXT: Akihiko Mori
PHOTOGRAPH: Timothée Lambrecq
PRODUCTION: VOLOCITEE Inc.
ソニーグループのサステナビリティ
私の方からはソニーのサステナビリティの取り組みを少し紹介をさせていただきたいと思います。まずソニーという会社がどんな事業をやっているかというところですが、もしかするとまだ日本では「エレクトロニクスの会社」というイメージが強いかもしれません。

しかし実際は、プレイステーションを中心とするゲーム・ネットワークサービスの事業、それから音楽、映画といったエンターテインメント事業、このようなエンターテイメント事業が今は売り上げの半分以上を占めております。これに加えてエレクトロニクスの事業、半導体の事業、そして日本では金融領域の事業と、非常に幅広い事業をグローバルで展開している会社でございます。

ソニーのパーパスは今ご覧いただいてますように、「クリエイティビティとテクノロジーの力で世界を感動で満たす。」というものです。ソニーが社会に存在している理由ですね。また、企業活動を通じて私たちが目指すところは何なのかといったことを表したものです。

ソニーのサステナビリティに対する考え方というのも、このパーパスをベースにしたものになっています。この人々が感動で繋がるということを目指していくためには、まず私たちが安心して暮らせる社会、健全な地球環境があることが大前提です。そして人を取り巻く様々なステークホルダーとの対話を通じて持続可能な社会を目指し、活動しています。世の中には非常に多岐にわたる社会課題があります。時代の変化であったり、あるいは社会環境、ソニー自身の事業活動の変化の中でも変わっていきます。

その中で、ソニーとして何を重視して取り組んでいくかということを決めていくというプロセスがあります。それが「マテリアリティ分析」というものです。簡単に説明しますと、ソニーに重要性がある課題とはどういったものかという視点と、社会におけるステークホルダーにとって重要な課題というのは何かという2つの視点を掛け合わせ、最も重要な課題を抽出していくというプロセスです。これは1年半ほど前に実施したものになりますが、ソニーグループとしては現在、気候変動、ダイバーシティエクイティ&インクルージョン、人権の尊重、そしてサステナビリティに貢献する技術からなる、4つのテーマを重要課題として取り組みを進めております。
テクノロジーを活用したサステナビリティへの取り組み

今回の講座に関連するような私たちのサステナビリティの取り組みの事例を紹介させていただきたいと思います。1つ目がアクセシビリティへの取り組みです。これは私たちの製品サービスが、障害のある方を含む全ての方に使いやすいものになるようにということで取り組んでいるものです。

「インクルーシブデザイン」を取り入れて商品開発をしていく取り組みで、ご覧いただいてるのはそのいくつかの事例です。特に昨年から今年にかけて話題になったのは、プレイステーションのコントローラーです。従来のコントローラーでは、肢体不自由な方をはじめ、操作ができない方がいます。そこで自由自在にカスタマイズし、拡張することでさまざまなユーザーが使えるようなコントローラーを昨年末から販売しています。こういった製品を開発していくにあたり、やはり重要だと考えているのがインクルーシブデザインです。

これは製品サービスの企画設計それから開発の初期段階から、当事者の方を巻き込んでいくというプロセスになります。先ほどご覧いただいた製品やサービスはそういったプロセスを経て世に出ているものですが、今はグループ全体でこのインクルーシブデザインを推進しようということで取り組んでおります。今ご覧いただいているのは、インクルーシブデザインをまずは体験してみようということで、研修のような形でワークショップを実施しています。こちらのワークショップでは、あるテーマをもとにした実際のグループワークの中で、障害のある方にリードいただき、街を歩いてみたり、あるいは電車に乗ってみたりします。当事者の方々の視点を体感するというものです。「障害のある方はこういうところが不便なのではないか」、あるいは「こういった機能があれば便利なのではないか」と、当事者ではない自分たちが勝手に考えるのではなく、開発のプロセスに当事者を巻き込んでいくことを通し、気づきや新しい創造に繋がるのではないかと考えています。

実際こうしたプロセスを経て開発された機能の一つにXperia、スマートフォンの写真撮影の機能があります。水平を感知するというもので、水平がずれると、音で知らせたりし、目が見えない方でも写真撮影ができるようにするという機能です。しかし、目が見える方にとっても、この機能は非常に便利に使えるものです。つまり、インクルーシブデザインによる機能や製品サービスは、より多くの方にとって便利な機能になるのではないか、と考えております。
パートナーシップによる社会課題への取り組み
もう1つは、パートナーシップによる社会課題への取り組みです。私たちはいろいろな社会課題に取り組む上で、やはり企業だけでは課題解決に繋がらないということで、専門であるNGOやNPOとの連携を非常に重視しています。

今ご覧いただいてるのは、世界自然保護基金WWFです。パンダのマークで有名な、環境領域の国際NGOですが。こちらの団体とのパートナーシップです。これはちょうど今週発表になった事例ですが、インドネシアのスマトラ島です。非常に多くの森林が失われている中で、森林の再生活動を彼らは行っています。ここにソニーのシネコカルチャー、生態系を拡張していくような農法を導入することで、森林再生活動をより効果的にしていこうというパイロット事業として今年始まったものです。この後のレセプションでシネコカルチャーで作られたお野菜も提供されると伺っております。

こちらで最後になりますが、セーブザチルドレンという団体とのパートナーシップです。セーブザチルドレンも国際NGOで、ソニーは災害の緊急支援や復興支援といった形で長年パートナーシップを組んでおります。彼らは災害に強いコミュニティを作りたいということで、インドでレジリエントのコミュニティ作りというものに取り組んでいます。この現場に、ソニー社員を連れていこうということで昨年の4月に初めて行った取り組みです。公募で募って8名の社員の方に現地に行っていただきました。ここで実際にどういった社会課題があるのか、ソニーとして取り組むのであればどういった可能性があるかといったことをワークショップ等を行いながら、検討していくプロセスを行っています。こういった形で私たちはNGOとの連携、あるいは社会課題の現場と企業を繋ぐといったことを通じて、サステナビリティに取り組んでいこうと考えています。今回の講座を通じて、こういったところに参加いただくような機会も、もしかすると検討できるのではないかと考えているところです。