越境に求められる「デフレーミング」|高木聡一郎
文理融合の研究と、アートやデザインなどの表現を実践する大学院、情報学環を中心とする東京大学、および「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」を存在意義に掲げるソニーグループが連携し「越境的未来共創社会連携講座」(通称: Creative Futurists Initiative)をスタートさせました。同講座は社会を批判的に読み解き、アートとデザイン、そして工学のアプローチによって問題提起・課題解決を行う人材を育成することを目的としています。
2024年2月22日(木) に東京大学情報学環・福武ホールで開催された同講座の設立記念シンポジウムで、高木聡一郎(東京大学 大学院情報学環教授)が関連活動の紹介をしました。
(※) 記事中の所属・役職等は取材当時のもの
TEXT: Akihiko Mori
PHOTOGRAPH: Timothée Lambrecq
PRODUCTION: VOLOCITEE Inc.

情報学環の高木と申します、よろしくお願いいたします。まだ私のところでは今回のプロジェクトが始まっているわけではないため、これまでやってきたことの中から、今回の越境的未来共創社会連携講座との関わりについてお話をしていこうと思います。

簡単な自己紹介ですが、情報経済学やイノベーションを中心に研究を行っており、ブロックチェーンの研究にも携わっています。この情報学環の中にブロックチェーン研究イニシアティブを立ち上げ、研究をしています。また、筧先生からもお話がありましたが、アート思考の研究をしています。芸術家がどんなプロセスで作品を作ってるのか、何を考えながら作ってるのか、どこから着想を得ているのか、そういったことをビジネスのアイディア創出の場面で応用できないだろうか、といった研究も行っています。専門は情報経済学やデジタル経済論、イノベーションマネジメントで、今回のメンバーの中では最もビジネスの現場に近いところで活動しています。

今日はその中の「デフレーミング」という概念を中心にお話しできればと思います。デフレーミングは私が作った造語でして、既存の枠組み、つまりフレームが壊れるというような意味を持った言葉です。
その中に3つの要素があります。
1つが分解と組み換えというものです。例えば通信の領域や金融が一緒になり、1個のアプリの中でチャットもでき、お金も送れる。そういったサービスがどんどん生まれてきていると思います。あるいは、もしかするとメディアの中に、コマースつまり小売の機能が入っていったりしています。そんな形で、業界の中にあったいろんな要素がバラバラになり、もう1回組み替えられていく。そういったプロセスを、分解と組み換えと呼んでいます。
2つ目の要素である個別最適化は、同じものを作って大量に売るのではなく、ひとりひとりに合った商品やサービスを展開していく、いわゆるカスタマイズです。これは個別最適化というのです。
それから3つ目が、個人化というところで、これはいわゆる組織の看板において組織の一員として働くだけではなく、個人がより自律的に、個人の看板、あるいは個人の信頼で仕事をしていける、そういった要素が増えてきたことを個人化と呼んでいます。この3つ、異なることを言ってるようですが、根は同じで、ITによってさまざまな取引に関わるコスト、フリクションが少なくなってきたことによりこうした現象が出てきているのです。先ほど申し上げたブロックチェーンは、個人化の一つの表れとして位置づけて研究をしているところです。

現在取り組んでいるのは、デフレーミングという概念をもとに、企業の中での事業創造、新しいビジネスモデルを考えるときのフレームワークや方法論化です。例えば教材のようなワーク、レクチャー、グループディスカッションするときのワークシートのようなものを開発しています。ワークシートを埋めていきながらディスカッションすることを通して、ビジネスのアイディアを創出するものです。そういった活動を行っています。


通常は全体で6回ほどのワークショップを行い、さまざまなアイディアを生み出していくことを行っています。例えば慶應の丸の内シティキャンパスで実施した際には、さまざまな企業の方が集まり、異業種の方が一緒に議論することをしています。もう一方で、インハウスで行っている場合もあり、同じ会社の人がより深く議論するというものです。より深く議論したいのか、異業種の人も入れて創発的に議論したいのか、そういった目的によってどのようなメンバー構成にすればいいか、といった知見が得られてきているところです。

それから最後にこれは2週間ほど前、全く同じこの会場で実施した、先ほど申し上げたブロックチェーンの関係の「DAO UTokyo」というカンファレンスです。スタンフォード大学などと主催しましたが、「自律分散型組織」といって、企業でもなく、リーダーもいないようなブロックチェーンを使ったネットワークで構成する金融サービスや、新しいサービスを生み出していくことを目的としたものです。その中で一つ事例をお話すると、「分散型ID」という領域が、国によっては非常に注目されています。自分のアイデンティティは誰に証明してもらうことがいいのか、という問題を扱います。日本にいるだけでは、そもそもそれが問題なのかがわからなかったりしますが、国が異なり、文化的なコンテクストが異なると、問題に気がつきます。そうした異なった文化的コンテクストの人と交わることによって、先ほどから出ている批評的視点が得られるのではないかと思います。
私の方からは、イノベーションを起こしていくときの仕掛けが重要だということや、目的に応じたメンバーの設定から、異文化の人と交流することによる批評的な視点の重要性について考えてみたいと思っています。このプロジェクトの中では、実際の具体的なビジネスにどうつなげていくかを取り組んでいけたらと思っております。以上となります。ご清聴ありがとうございました。