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筧:お待たせしました。本日はお集まりいただきありがとうございます。これから、東京大学とソニーグループが立ち上げて、今絶賛活動している「Creative Futurists Initiative(越境的未来共創社会連携講座)」という講座の中で、新しく企画として立ち上げた「Creative Futurists Dialogues」というシリーズ、今日がその第1回目になります。

改めて、この講座の主宰の一人をしている東京大学情報学環の筧と申します。よろしくお願いします。

今日の趣旨を最初に説明します。僕自身がソニーグループの方々と一緒に議論しながら準備し立ち上げたこの講座について最初に少しお話しします。「越境的未来共創」「Creative Futurists」 などいろんなキーワードを今ここに置いているように、みんなで越境的に未来を共創していこうということを考えてこの活動をしているので、このダイアログシリーズの中では、越境的に活動している人たちだったりとか、共創している人たちだったりとか、ユニークな形で未来を形作る、見通すような活動をしている人たちに今後来ていただいて、内外、ソニー内外、国内外の方々に、色々なインプットをしてもらおうと思っています。

そのインプットを受けて、皆さんの役に立っていってもらう、というのもあるんですけど、今日はダイアログということで一方的に話をしていくということだけじゃなく、そこから新しいアクションやコミュニティが生まれたらいいなと思っています。

ここは割とカジュアルな場になったらいいなと思いつつ、初回なので緊張感が漂っていますが、横のつながりができたらなと思ってこの企画を始めました。

今日は1回目なので、僕が話すのが良いだろうということで、今日は僕の回です。次回以降は、月に1回ぐらいのペースでこういう場を持ちたいと思っています。

後半は、今日は東大から来られている方、ソニーから来られている方、その他で来られている方がいますが、それぞれの方のバックグラウンドだったり、問題意識だったり、経験というのを話し合うような場を作って、みんなで会話、ディスカッションができれば良いなと思いますのでよろしくお願いします。やり方は後ほど説明します。

先日ですね、先日といっても2月の実施だったので2ヶ月ぐらい経ちましたけど、キックオフのシンポジウムをしました。

公式Webサイトではその時の映像が見られるようになっていて、もうちょっと整えて記事にもしたりとか、色々な形でこの時の面白かったインプットの話はまとめていきたいと思っています。キックオフに来られた方も、まだ見てないよという方もいると思うんですけど、目を通してもらえると、僕らの最初の問題意識が伝わると思うので、ぜひ見てみてください。

これはソニーグループの執行役専務兼CTOの北野宏明さんに来ていただいて、「Act Beyond Borders」というタイトルで、ボーダーを越えていかに新しい価値を作っていくのか、という話をしてもらいました。

東大からは特別教授の山中俊治さんに来ていただいて、彼も今ちょうど六本木の21_21 DESIGN SIGHTで新しい展覧会をされていますけど、「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」というテーマで、科学者とデザイナーあるいはアーティストが共創するということが、どのように大変でどのような価値があるのか、話をしてくれました。

その後のトークでは、東大の理事・副学長の林香里さんにも来ていただいて、ダイバーシティ等を主に見ておられる方ですけれども、面白かったのは、やはりデザイナーとかエンジニアとかアーティストっていうのは、基本的には新しいものを作る、新しい技術を作るというところに対してポジティブなんだけれど、林先生はもともとジャーナリズム等を専門にされていて、ダイバーシティ等を見ていると何かやはりものを作るということに対する功罪やそれに対してのネガティブな側面はやはり感じざるを得ないということをおっしゃっていて、かなり悲観的な側面で新しいものづくりとか技術というのを見ている。

ただこういうコミュニティとして新しいものづくりを担う人たちと、それに対して批評的なまなざしを持つ人たちが、対話をしながら一緒になって価値を作っていくっていう場があることに対しては、すごく前向きな場としてあった。こういった色々な側面から新しいものづくりっていうのを、一つの価値観に閉じずに立ち上げていくっていうことが、この東大の中でも、ソニーグループの中でもできるといいなと思っています。アカデミアと企業、社会を超えて様々な輪が広がっていったらいいなという問題意識で立ち上げたのが、この「Creative Futurists Initiative」という講座になります。

「Creative Futurist」を紐解く三本の軸

キックオフって見られたという方どれくらいいますか? 4月になったので結構メンバーも変わっているかなと思うのですが…。(会場の一部挙手)じゃあ一部の方はキックオフも見てもらえているということですね。

その中で話したことを最初にちょっとだけ言っておくと、社会連携講座って何かというと、基本的には寄附講座のように新しい価値観のものや新しい研究領域の立ち上がりみたいなものを講座の形で提供して、仲間を増やしていくとか人材を育成していくということです。

もう一つは共同研究という形で具体的に研究活動や実践をこの中で行っていきたいということがあるので、研究的側面と教育的側面を両方合わせ持つような座組みになっています。

いろんな言葉も混ぜこぜに入っていますけど、この講座は通称で「CFI(Creative Futurist Initiative)」というふうに言っていますけど、こういう態度を持つ人たちを育てたい、あるいは実践しながらこういう人たちがどういう人たちなのか、ということをもう少し明らかにしていきたい、ということを考えてこの名前をつけています。

キックオフの時にもお話ししたんですけど、クリティカルなマインドを持つということ、そしてクリエイティブに振る舞い想像していくということ、もう一つはコラボラティブあるいはコークリエーション、越境的あるいは共同的に振る舞うということ、この三つの軸を合わせ持ったり組み合わせたりすることによって、新しい価値創造をしていきたいと思ってやっております。

僕や東大のメンバーが所属している情報学環では、半分は人文社会学系の研究者の方だったりだとか、それを志す学生の皆さんで構成されていて、残りの半分は、理工系でものを作るとか、ものをユニバーサルに捉えるっていう態度を持つ研究者や学生、そして僕の研究室だとそこにアーティストやデザイナーが多く関わるような、そういう学際的な組織で活動しています。

主に人文社会学の視点でいうと、物事に対して批評的な視点で捉える、あるいは捉え直すということと、そこから問いを抽出していくということが非常に重要なアクションになる。それに対して理工系を中心に話すと、新しい問いを解決する手段として、先端的メディア技術を駆使した創造活動を行っていくということをクリエイティブの軸として、活動している人たちがいます。

僕ももともと工学部にいて、工学部にいると、ある種の目標があって、そこに対してどういうふうに技術を最適化していくかっていうこと、あるいはそこに向けて新しい技術をいかに作っていくかっていうことが一つのアクティビティになっていくんですけど、そこ(ある種の目標)に対して何を作るのか、なぜ作るのかという問いを置いていくということが非常に重要になっているんですね。

ゴールが決まっていて、そこのスペックをアップデートしていく、チューンしていく、最適化していくということは、それはそれで難しい課題ではあるんだけど、今の時代だとそこにとらわれずに、まず先に、根本的に何を、なぜ作るのかということを考えないといけないなということは昔からよく言われています。

学科の中でも人文系の研究者と理工系の研究者が一つの組織にいるけれど、どれくらい交流してどれくらい一緒に活動しているのかというと、実は設立から20年以上経つと徐々に専門性の分化が始まっていて、それぞれのディシプリンの中で専門性を研ぎ澄ませ、深めていく方向に移っていく。

でも本来は、クリティカルな姿勢とクリエイティブな姿勢というのはもっとシームレスにつながるべきだし、個人で両方を併せ持つような研究者やクリエイターが求められるというところで、そこをつなぐような場を改めて作りたいということがモチベーションとしてあります。

そのために、やはり一つのディシプリンに閉じる、個人のものづくりに閉じる、ということではなくて、専門性を超える、あるいは既存の領域を超えるような活動、それを越境的あるいは集合的思考に基づいた創造活動というふうにいうこともできると思うんですが、そういったものを前提として、これから東大やソニーの中で、コミュニティや新しい研究活動のサイクルを作っていきたいということをモチベーションとして、この三つの軸を持ってやっています。

そこではやはり技術というものをどのように社会と接続していくのかというところが今すごく重要になっています。技術とアートとデザイン、社会の間の部分、あるいはもしかしたら両端にあるのかもしれないですけど、それらを別物ではなく行き来するように、あるいは合わせ持つように、そのエレメントを組み合わせながら活動していきたい。大学の中にも、ソニーの中にも、もしかしたらこれまでに分かれてしまっているかもしれない人材というものを繋いでいこうということで、この場があります。

今日も人文社会学系の方も多く来られていますし、理工系の方も多いと思います。他には、アーティスト、デザイナーとしてこれまで学びを深めてきたり活動している方もいます。それぞれいろんな方がいるので、せっかくなので後で言葉を交わして対話をして、今日に限らず、仲間意識というか、コミュニティが少しずつできていくといいなと思っています。

実践的なワークショップを織り交ぜた「レクチャーシリーズ」

キックオフの時にも述べましたが、この講座の活動はすでにスタートしていて、その後も活動しています。

活動の一つは、このレクチャーシリーズという場です。これは先ほど説明したんですけど、いろんな外部の方も含めたインプットをして、その場で問題意識を重ね合わせながら議論する場所を作っていく。

そしてレクチャーシリーズに合わせて、教育的側面としてワークショップもこれからいろんな形で展開していこうと思っていて、分かりやすいところで言うと、アート思考とかデザイン思考を改めてワークショップとして実践してみるということだったりとか。次回のダイアログ002では、エスノグラフィーについて基本的なところを体験できるような講座+ワークショップのようなものも企画しています。

それぞれの分野でのスキルセットや考え方をこの場で交換するようなワークショップを今後やっていきたいと思っていて、ダイアログの中にワークショップが入り混じるということを今後やっていきますので、ぜひ引き続き皆さん参加してもらえるとうれしいです。

あと、去年から実践研究プロジェクトというものが立ち上がっています。今年新しくソニーに入社した方とか東大に入った方にも参加できる機会を作っていきたいと思っているんですけど、今はテクノロジーに関わるバイアス(テックバイアス)をテーマにして、いろんなバックグラウンドを持ったメンバーが、改めてそこに対して批評的まなざしを向けながら価値創造し、デザインや技術開発をしていくプロジェクトを立ち上げています。

プラス、こういう色々なバックグラウンドを持った人たちが共創するプロセスそれ自体をある種の研究材料として、創造性や創造活動がいかに構成されていくのか、というもの自体を研究していき、最終的にはある種のパターンや方法論としてまとめていきたいと考えています。

この場に閉じず、もっと多くの場で同じような志をもった人たちが展開していけるような

場所ができたらいいなと思っています。そのために、方法論や創造活動そのものの研究をやっていきたいと考えています。

そのテックバイアス研究の田中東子先生が今日もいらしてますけど、もちろんここにもソニーのメンバーが関わっていて、東大からも理工系、人文系、経済学部出身など、ソニーからもマーケティングからエンジニアから、本当にいろんな人たちが入ってくださって、今30人ぐらいのメンバーでチームアップをしています。

先日もソニーをある種のフィールドワークとして、ソニーでの活動についてインタビューして、そこからまた問題指標を揃えていく、新しいデザインを作っていくというような活動を徐々に進めています。

これも、今年の活動をどこかでアウトプットできるような機会を考えながらやっていますので、また引き続き見てもらえたらと思います。

国内外の研究者、エンジニア、アーティストらが登壇予定

先に今後の予定をお伝えしておくと、今日は1回目なので、僕が話して、後で皆さんともお話します。

次は、5月8日(水)ですね、情報学環准教授の藤田結子さんに講義とワークショップをしてもらうことを企画しています。彼女の書籍でも「現代エスノグラフィー」と言っていますが、エスノグラフィーの専門家で、特にやはり理工系の人たちは、もちろんHCIとかインタラクションに関わるところだと、ユーザースタディとかフィールドワークっていうのも信用性が高いところもあるんですけど、直感でものづくりをしてしまっていたりだとか、データ、定量的なものだけを見てものづくりを進めてしまったりということがあるんですけど、そこに対して主観的でありながらも、ある種の再現性があるフィールドワークのやり方みたいなところを少しレクチャーしてもらって、「誰でもできるエスノグラフィー」というタイトルで、実践的なワークショップを5月明けにします。

Peatixを先ほど作ったので、そこでも参加登録できるようにしていますが、これも今日と同じように対面でやらないとちょっと意味が変わってきちゃうっていうことがあるらしくて、オンラインでも前半聞けるようにしますが、対面でエスノグラフィーの体験ワークショップというのを企画していますので、お時間があったらぜひ予定しておいてください。

あと5月の後半に、20日あたりに海外の研究者の方ですね、どちらかというとデザインとエンジニアリングに関わる研究者に来ていただいて、トークとワークショップのようなことをしようと思っています。こちらもフィックスできたら共有します。

あと6月の後半に、今日も来ていただいてます中村寛さんにデザイン人類学という僕にとっては新しい分野について講演いただきます。まさに僕らの今回の問題意識で、批評的な視点とものづくりをどういうふうに接続するか、あるいはデザインを経由してもう一度その批評的なまなざしにどういうふうに関連していくか、という問いに対して、シームレスに行ったり来たりするような活動だと認識しています。そのあたりの新しい領域の立ち上がり、あるいは色んなヒントをいただくような場を、考えていますので、ぜひ皆さん今後も毎月少しずつやっていこうと思いますのでよろしくお願いします。

即興的にふるまうマテリアルとその周囲の体験をデザインする

ここからちょっと僕の活動に関わるところの話を15分ぐらいして、その後戸村さんと対談形式で僕らの問題意識をもう少し共有していきたいと思っています。

僕自身は、先ほども少し言ったんですけど、もともと工学の出身です。電子情報工学という領域で、VRとかARとかヒューマンコミュニケーションメディアを専門にしている研究室にもともといました。

そこから映像メディアを中心に研究していたのですが、今もそうなんですけど画面の中があまり好きではありませんでした。物理世界をデジタルメディアによって、いかに体験を拡張していくことができるか、という問題意識で様々な映像投影技術や画像処理技術というものを作りつつ、物理世界でのインタラクションデザインを工学を軸に進めていました。

僕の研究室は先ほども言ったように学際的な場になっていて、半分ぐらいは芸大とか美大など美術系から来ます。もともと画家だったりとか陶芸家だったり、スペキュラティブデザインだったりとか、デザインやアートの領域でも多様なバックグラウンドがあり、そこからインタラクティブメディア技術を学びたい、あるいは加えたいということで来ている人たちがいる。

あとは、理工系、僕のように電気系の人もいますし、ロボット、建築など、もう少し表現領域に滲み出していきたいというモチベーションで来ている人たちも半分ぐらいいます。あとは社会人も多くいますし、海外から参加してくれているメンバーも多くて、プロフェッショナルにデザイナーやアーティストとして活動するあるいはファカルティとして活動しながら学び立つために東大のこのラボにいるというような、かなり面白いというか変わった構成になっています。ラボには合わせて今メンバーとしては40人くらいいます。その奥にラボがあるので最後にちょっと覗いていってください。
研究に関しては、ちょうど今月に共著で執筆した本が1冊出るので、そこに工学的なアプローチのプロジェクトがかなりたくさん載っています。『デジタルファブリケーションとメディア』(2024,コロナ社)という本です。

この本でまとめたのは、特にデジタルファブリケーション技術を活用した、あるいはそれ自体を技術開発のターゲットして、インタラクティブなものづくり、あるいはインタラクティブなものづくりの手法を開拓する研究群です。これは、現在の研究室の活動の一つの軸になっています。

もともと僕はプロジェクターなどで、この世界が動的に変容しているかのように見える、あるいは映像を介して物理世界でインタラクションを作るということから、徐々に物あるいはマテリアルそのものをプログラムや制御する、あるいは関係づけることによって物の特性とインタラクティブに関わるような技術の研究をしてきました。もしくは物自体がインタラクティブに振る舞うような研究をしています。

それらを合わせて「マテリアルエクスペリエンスデザイン」というラボのキーワードとしているんですけど、マテリアルを作るところからそれを体験するところまで通して設計するという思想のもとに研究をしています。

ラボのプロジェクトはウェブサイト等で見ていただければと思いますが、まさにマテリアルそのものが動的に形を変えたり、動きや色を変えたり、大きくなったり小さくなったりとか、電気的・機械的な仕組みも含めて、あるいは環境からの働きかけに呼応するようなマテリアルというものを使うことによって、素材自体がスタティックな存在からよりダイナミックな存在、そしてリレーショナル、あるいはインタラクティブな関係を結ぶような、そんな新しいマテリアルの研究、あるいはそういうマテリアルを持つオブジェクトの研究をしています。

工学的には、「ヒューマンコンピューターインタラクション(Human Computer Interaction: HCI)」という分野がそういう領域をカバーしていて、もともと画面の中のコンピューターといかにインタラクションをするかというところから今はデジタルファブリケーションやロボットなどの技術を介しつつ、ものとのインタラクションをどう設計するかという視点で研究が進んでいます。

もの自体がより即応的に作られていくためにはどうしたらいいか?数時間、数日、数週間かけてものが出来上がるのではなくて、映像や音声と同じようにより即興的にものを作る・ものができる、あるいはもの自体が周りと関係を持ってインタラクティブに振る舞うということができたとしたら、そこにどんな関係が生まれるのか?このような研究を進めていると、技術的な新規性だけではなく、様々な問いが生まれてきます。工学研究に加えて、アートやデザインのアプローチを絡めて、問いの投げかけ、あるいは未来の可能性を示すという取り組みを行っています。
アート作品としてインスタレーションとしてギャラリーやミュージアム、アートフェスティバルで展示するということも多くあります。いくつか具体的な取り組みや問いを紹介します。

先ほど言ったように、もともと画家として活動してきたメンバーがこの研究室にいます。このプロジェクトでは、キャンバスの上に画家が画材を置いていくという「絵を描く」という行為、そのある種のフレーム・制約を乗り越えるために、デジタルファブリケーション技術を使って、液体が勝手に染みていくと自然に画が出来上がっていく、支持体自体がある種のプログラムをまとって、支持体の上で動的な絵画が主体としてのアーティストを経由せずに出来上がっていく。そういう新しい芸術基盤になるような技術と共に、創造性やその主体を問い直すような作品を展開しています。

別の研究室の活動の軸あるいは問いとして、人とコンピューター、人と人工物の関係だけではなくて、マテリアルとか自然現象とか物理現象と絡まるテクノロジー経由することによって、人と周囲の物理環境、つまり自然環境を含めた環境との関わり方、意識の変容というのをどういうふうにデバイスや人工物が触媒として担うことができるのか?人と自然の関係をもう一度捉え直すように技術研究、デザインあるいはアート作品として表現しています。

これは植物の生体電位をとることによって植物が感じている風や雨や人との接触というものを光や音で表現するインスタレーションです。このインスタレーションはYouyang Huという中国出身のバイオアーティストでありエンジニアがリードして制作しました。

僕らの研究室にいる人たちはみんなアーティストやエンジニアやデザイナー、様々なアイデンティティを持った人たちがここにいることが多いのですが、アーティストとエンジニアのコラボレーションではなくて、複数の新しいマインドセットを持ち合わせた人が、かつ複数グループを作ってこういった創造活動をしていることが一つの特徴になると思っています。

対話とものづくりが新しい価値を創造する

こんなことを背景にしています。このあたりはまたこの講座の活動の中でも時々話をすることができると思うので、この講座の問題意識にも少しつなげるということで、いくつか過去にコラボレーションをしてきた例をご覧いただいて、戸村さんとの対話につなげていければと思っています。

先ほどお見せした素材研究とかインタラクション、研究工学に基づいた研究というのも多くやっているんですけど、その一方でコラボレーションの中でものを作っていくということをかなり経験してきました。

僕はエンジニアでありながら徐々に徐々にメディアアートの領域に引き込まれていって、アートとエンジニアリング、あるいはインタラクションデザインの領域にも関わっています。だんだん自分の中で複数のアイデンティティを持ちつつ、分化させながらもちょっと未分化な状態でものづくりをしますし、色々な方とコラボレーションを今まで経験しています。

例えば、この「Journey on the Tongue」というプロジェクトでは、諏訪綾子さんというフードアーティストとevalaさんというサウンドアーティスト、そして僕という組み合わせで作品を作りました。

これはINTERSECT BY LEXUS – TOKYOという南青山にあるギャラリーで発表した、コロナ禍になる前の作品です。諏訪綾子さんという、フードや食べるという経験を作品化していくというとても特徴的なアーティストがいらっしゃるんですけど、彼女から声をかけられて、新しい作品を一緒に作りたいということでご一緒しました。

これは飴のようなオブジェクトですね。様々な味が多層的に入っているオブジェクトを口に含むと、この棒を伝って味と香りがしていくのに対して、振動と音が頭の中から広がっていくというデバイスを作り、そのインスタレーションを制作しました。

evalaさんが、口の中で味わう音(振動)を設計して、つまりこれはみんな耳栓をして目隠しをして体験しているんです。

evalaさんもこれはおそらく世界で初めて耳栓をして聴く音楽作品じゃないかっていうふうに言っていたんですけど、アーティストと組み合わさることによって、これまでとは全く違う音との関わり方だったり、五感との関わり方っていうのを体験することができました。

一番最初は、諏訪さんが僕のところに来て「気配を食べたいんです」っていう一言からスタートして、そこで分からないとやめることもできたんですけど(笑)、「そうですね、是非食べましょう」というところで話をして、「気配を食べるってそもそも何なんですか?なんでそんなことを考えちゃったんですか?」みたいな話をするところから、徐々に諏訪さんの見ている世界観に自分を擦り合わせていく、あるいは同じところと違うところっていうのを話し合うことによって、僕自身の自発的な関心として気配を食べるということを少しずつ培っていきました。

だんだん、それだったら触覚技術があって、触覚技術を使うと口の中で本来食べているものとは違うものを食べることができるんじゃないか。いろんなプロトタイプを通して、これが最初に諏訪さんの言っていた気配を食べることに近いのかとか、彼女自身の中でもぼんやりしているので、徐々にピントを合わせていく。そんなことができるなら、こんな味を食べたらどうなっちゃうんだっけ、みたいな話だったりとか。

途中で、これはぜひevalaさんに口の中でしか聴けない音楽を作ってもらおうということになって、「気配を食べたいんです」って、僕がまた話をしにいくっていう、徐々に仲間を増やしていくことによって、最終的に「Journey on the Tongue」舌の上で旅をする、という作品が生まれていくんですね。もう一つ、「オーディオゲーム」という主に視覚障害を持つ方々に親しまれるゲームの領域、音から発想し、音だけで遊ぶゲームの領域というのがあって、電子ゲームの一つの領域としてあります。

これは僕らが作った言葉ではなくて、もともとオーディオゲームのコミュニティというのは小さいながら日本にもあるし、海外にもある。最初に「これまでとは違う形で音を体験するっていうことをやってみたいんだよね」という話があり、田中みゆきさんというキュレーターの方と一緒に、僕らも触覚の研究とかをしていたので、そこから話がスタートしていきました。途中でオーディオゲームを作っているという当時SFCの学生だった野澤幸男くんが、たまたま僕の研究室を別件で訪問してきてくれて、話を聞いてみると合うかもしれないので、そのまま誘って一緒に活動することになりました。

視覚障がい者の方々が、普段体験している世界、音を通じた体験の仕方や遊び方というのは、そもそも彼らがすごくリッチな音の体験活動や遊び方を知っているということなのです。
障がいのある人をサポートするという態度ではなく、それを僕らも体験できるような形にしていくということや、体験に対するハードルを減らしたり、体験をより豊かにするために、インタラクティブな技術やデザインをこしらえて、一緒に新しいオーディオゲームを作りました。これは画面のないゲームセンターを作ろうというコンセプトで、「オーディオゲームセンター」と言っているんですけど、そういったものを一緒に作っていったことがあります。

最終的にはさまざまなアーティストや開発者の方にも加わっていただく形で、音のホラーゲーム、レーシングゲーム、アクションゲームっていうタンジブルなインターフェースを伴う、あるいは体として動き回るようなものを伴うゲームが生まれました。通常のオーディオゲームは、画面自体は動かず、画面に向かってイヤホンをつけ、座ってやるものが多いのですが、もうちょっと身体的に使える、みんなで遊べるオーディオゲームになりました。

他にもいろいろあって紹介したいんですけど、最後にこのプロジェクトを。これは昨年から今も続いているプロジェクトで、たんぽぽの家という福祉施設の人たちと一緒に、佐久間新さんというジャワ舞踊のダンサーの方と新井英夫さんという野口体操にルーツを持ち、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を“得た”ことでだんだんとこの身体の変化を受け入れながら新しい身体表現をしている人とのプロジェクトがこちらの「Art for Well-Being」になります。

これもまた、はじめのきっかけは僕が声をかけられるんですけど、たんぽぽの家の方から「新しいダンスとその鑑賞の形を作りたいんです」という風に声をかけてもらって、「いいですね」というところから対話しながら、始めていきました。いろんな装置を組み合わせながら、彼らが今できる、あるいは今やりたい、あるいはこの先にできていくであろう新しい身体表現の形というのを対話をしながら、あるいはその場でものを作りながら即興的に対話とものづくりを通して価値を合わせていき、新しい表現を作っていきました。本当にいろんな方が、それこそまさに越境的にダンスパフォーマンスの創造に関わっています。

やはり一つこういう活動の中で思うのは、先ほどのオーディオゲームの野澤くんとかもそうですし、この間ソニーでそんな議論をしたんですけど、インクルーシブデザインというと、どこか障がいを持つ人たちを招いて / 巻き込んでものづくりをする人やデザインをする人がそこから学んで何か形を作っていくという、そこのギャップのようなところを感じることがあります。僕がこれまでコラボレーションしてきた人たちっていうのは、アーティスティックな側面があるというところもすごく大きいのですが、やはり皆さんある種の当事者性を持ちながら、かつでも自分で創造的な活動をしている人たちであり、さらにその人たちが一人でやるのではなくて、周りの人たちを巻き込んで新しい価値だったり新しい表現を作っていくということが、僕のこれまで体験してきた多くのプロジェクトで起こっていると思います。

例えば先ほどの「気配を食べたい」っていうところに対して、対話をしながら、かつそれだけでは分からないから、ものを作りながら意識、視線、ビジョン、イメージ、妄想を合わせていくっていう態度にも、どこか僕が当事者になるというかその意思を引き受ける活動っていうのが最初にありました。

自分ごとになった状態で、違うスキルセットを重ね合わせながら新しいものを作っていき、その価値観だったりビジョンみたいなものを問うための場がアート作品であったり、技術論文であったり、もしかしたらプロダクトの場合もあるかもしれません。

当事者性を持ちつつ、それぞれの視点で批判的、批評的、あるいは自らへのジレンマみたいなものを抱えつつ、かつ、でもそれをただそこで終えるのではなくて、クリエイティブな
活動へと接続していくということが、これまでお会いした魅力的な方々、グループっていうのには多く起こっていたんですね。

それを再現可能とは言わないんだけど、こういう場所で自覚的にかみ砕いて作っていくことはいかに可能なんだろうか?そこに対して最初に話したような講座の座組みを作ることによって、それぞれがある種の当事者性を持ちながら批判的、批評的なまなざしを持ちながらも周りと手を組んで作っていくことができるとしたらどのようなことが生まれるんだろうか、と思いやっています。

その中で僕のこれまで経験してきたこと、言語化できているものもあれば、言語化できていないこともあるんですけど、それらを様々な形でお伝えしつつ、僕もある種のプレイヤー・当事者としてこの講座に関わっていければというふうに思っています。

いろいろさらに紹介したいところではあるのですけど、僕の最初の話はここまでにさせてもらいたいと思います。

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