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インタビュー記事_ピックアップ
2024/05/19

越境者が集まるラボを、社会でつくる|筧康明

越境者が集まるラボを、社会でつくる|筧康明 東京大学情報学環とソニーによる越境的未来共創社会連携講座は、社会課題を批評的に捉え、アート・デザイン・⼯学によって創造し、社会と協働できる人材「Creative Futurist」を育成することを目的としています。講座の運営を行う筧康明教授は、これまでアート・デザイン・⼯学にまたがって研究やアーティスト活動を行ってきました。そして東京大学情報学環のラボ「xlab」にはさまざまな「越境者」が集い、探求を進めています。筧教授に、越境的未来共創社会連携講座でどのようなことに取り組むのか、詳しく聞きました。(※) 記事中の所属・役職等は取材当時のものINTERVIEW / TEXT: Akihiko Mori PHOTOGRAPH: Kaori Nishida PRODUCTION: VOLOCITEE Inc.マテリアル・エクスペリエンス・デザインxlabで生まれたこの作品は、物理世界の現象を、計算によって制御したものです。 見た目には奇妙で不思議ですが、この現象自体は、とくに珍しいものではありません。お風呂でもどこでも、自然に生まれているものです。水の上から水滴をそっと注ぐと、水中に泡が生まれます。この泡は、水滴が空気の薄い膜に包まれてできる泡であり、シャボン玉などの泡とは逆の構造をしています。この現象は「アンチバブル」と呼ばれます。 人工的に制御し、小さな水槽に閉じ込めてしまうことで、アンチバブルは物理世界で偶然に生じるときとは異なる表情を見せます。泡が生まれ、形を変えながら、消失していく。その過程は、作り出すことと同時に失われていくこと、その絶妙なバランスの中で成り立っています。これは、自然と人間の関わり方の縮図なのかもしれません。 コンピューティングによって、現実世界の物質の形や色、大きさ、触感、香りを自在に変え、まったく新しいユーザエクスペリエンスをデザインする。そのコンセプトを私は「マテリアル・エクスペリエンス・デザイン」と名づけました。越境者が集まるラボ私は大学の頃は工学部電子情報工学科に所属し、情報関連の分野を学んでいました。プロジェクションマッピングや画像処理、VR(Virtual Reality)の研究に取り組み、人の行動や振る舞いを映像で拡張する研究をしていました。その後、テクノロジーを活用し、現実世界の物質を拡張する、ということに関心を持ちました。パソコンやスマートフォンのディスプレイの中のデジタル空間では、私たちの想像を遥かに超えた、さまざまな表現が可能です。こうした表現が、現実世界に出てきたら? そんな表現はつくることができるのか?  そうして構想したものが、現在マテリアル・エクスペリエンス・デザインとして方法論化を続けているものです。物理環境における物質(マテリアル)とコンピューティングをかけ合わせ、メディアとして利用することで、新しい情報の表現や、相互作用(インタラクション)をデザインの方法によって実現するというコンセプトです。 デザインは見た目を整えることではありません。特定の目的を果たすために、従来は考えられてこなかったやり方で異分野をつなぐことができる方法論なのです。 その後、縁あって東京大学大学院学際情報学府で研究室を持つことになりました。私の研究室「xlab」は、アートと理工の顔を併せ持つラボになりました。美術大学・芸術大学出身者と理工学系の出身者が「既存の枠組みではとらえきれない何か」を探求し続けています。その風景は、いわば「越境者が集まるラボ」です。 メンバーの半分は美大・芸大、もう半分は理工系の大学の出身です。たとえば画家として活動してきた人は、絵画のマテリアル、つまりキャンバスをデジタルファブリケーションによってつくり、新しい表現を探求しています。私のように工学から出発し、情報技術や建築などを通じて表現の領域を広げようとする人もいます。異なるバックグラウンドを持つ人たちが、既存の分野に留まっていては手に負えない問題意識を持ち、自分だけの探求をしに、このラボに集まってくるのです。そしてみな、共通して批評的で、創造的で、そして協調性を持って新しいものを生み出すことができる。少なくともそうしたトレーニングを、このラボでは積み重ねています。 研究のアウトプットも多岐に渡ります。探求の中で見つかった技術を工学における論文としてまとめることもできますし、アート作品をつくり、オーストリア・リンツで毎年開催される、世界的なメディアアートの祭典である「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」で作品を発表する人もいます。xlabで実際に制作された作品『Efficiency of Mutualism』。アルスエレクトロニカでの受賞歴のほか、国内外で多数の展示を行ってきたアーティストとしても活動する滝戸ドリタがxlabでの研究として取り組む。同作品は、植物と共生する微生物、光合成、そして水の電気分解による複数の発電の仕組みを通し、人と自然の関わり方を再考する。現代の「次に作るべきもの」に必要な批評性私のラボに集まる人々が繰り広げる越境的な活動は、何より私自身にとって非常に興味深いものです。何よりも彼ら彼女らは創造性や協調性だけではなく、批評性を持って社会と関わり、新しいものや考え方を次々と生み出していく。このような活動を、さらには思想を、もっと多様な人を巻き込んで実現できないだろうか? 私はずっと考えていました。…
CFI Kickoff Symposiumイベントレポート
2024/02/22

共創の土壌としての多様性|林香里

共創の土壌としての多様性|林香里 文理融合の研究と、アートやデザインなどの表現を実践する大学院、情報学環を中心とする東京大学、および「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」を存在意義に掲げるソニーグループが連携し「越境的未来共創社会連携講座」(通称: Creative Futurists Initiative)をスタートさせました。同講座は社会を批判的に読み解き、アートとデザイン、そして工学のアプローチによって問題提起・課題解決を行う人材を育成することを目的としています。 2024年2月22日(木) に東京大学情報学環・福武ホールで開催された同講座の設立記念シンポジウムで、林香里(東京大学 理事・副学長)が閉会の挨拶をしました。(※) 記事中の所属・役職等は取材当時のものTEXT: Akihiko Mori PHOTOGRAPH: Timothée Lambrecq PRODUCTION: VOLOCITEE Inc.北野様を初め、ソニーグループの皆様そして筧先生を初め、親愛なる情報学環の同僚の皆様、本日はCreative Futurist Initiative 越境的未来共創社会連携講座のシンポジウムにご参加いただきまして、そしてここにご来場の皆様も、本当にありがとうございました。 シンポジウムの閉会でございますので私、東京大学理事・副学長として関係者の皆様に感謝の意を表すとともに、この講座の越境的未来について期待を込めて、少々お話しさせていただきます。 私が東京大学の理事・副学長として主に担当しているのは、大学の国際化とキャンパスのダイバーシティインクルージョンの推進です。本日、ソニーの皆様のご登壇のリストなども拝見し、正直ですね、「負けたな」と思いました。ジェンダーや国籍の多様性が反映されているようで、まさにソニーのパワーの源となっているのは、こうした多様性なんだなということを改めて確認いたしました。多様性というのは、残念ながら本学ではまだ足りていません。先ほど申し上げましたように、なかなか進まないというのが現状です。 筧先生をはじめ今日出演した東大のチーム、そして活動と基盤となる情報学環、私の故郷でもありますけれども、これらは均質的な東京大学の環境の中ではかなり健闘しております。田中東子先生を初めとして、女性教員の比率も33%、女性学生の比率も47%半分ほどになっておりますし、留学生の比率も4割ほどとなっています。東京大学の中では、多様性に富む、なかなか面白い研究科でございます。ちなみに東京大学の平均は女性教員が15%、そして女性学生が24%ほどですから、情報学環というのは多様で、いろいろごちゃごちゃしてますけれども、楽しい場所でございます。多様な視点を持って、相互に考え方の違う人たちがいる集団というのは、似たり寄ったりの考え方を持つトップ集団よりも劇的に集合知を発揮する、というのが『多様性の科学』という本を著したマシュー・サイドが様々なケーススタディを検証したときの結論でした。 現代の複雑な課題、貧困や疫病、地球環境破壊、情報汚染などの問題に対処するためには、異なる考え方をする人々と協力し合うことが欠かせません。そうすることによって斬新なアイディアの創出、そして多くの検証に耐えうる強靭な知見を得て、最終的には研究の質の向上にも貢献すると思います。この講座では文理融合に加えて、アートやデザインといった人間のクリエイティブな能力を重視して、それを学問的アプローチとして採り入れていくということが一つの特徴だと理解しています。 こうした異なる分野の統合、そして実践的かつ革新的な解決の導出に不可欠な知見について、情報学環は長年にわたって培ってきております。ソニーグループとの連携を通じて、それらの知見をさらに発展させていく。そんな楽しそうな展望が見えてきました。ちょうど今週、東京大学は「カレッジ・オブ・デザイン」という、学部と修士課程の一貫教育課程を立ち上げることを発表しております。情報学環がこれまで培ってきた実績、そしてこのプロジェクトの成果を、全学にも広げていただければ、と思っております。…
CFI Kickoff Symposiumイベントレポート記事_ピックアップ
2024/02/22

越境者が語る、越境と未来と共創について|パネルディスカッション

越境者が語る、越境と未来と共創について|パネルディスカッション 文理融合の研究と、アートやデザインなどの表現を実践する大学院、情報学環を中心とする東京大学、および「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」を存在意義に掲げるソニーグループが連携し「越境的未来共創社会連携講座」(通称: Creative Futurists Initiative)をスタートさせました。同講座は社会を批判的に読み解き、アートとデザイン、そして工学のアプローチによって問題提起・課題解決を行う人材を育成することを目的としています。 2024年2月22日(木) に東京大学情報学環・福武ホールで開催された同講座の設立記念シンポジウムで、林香里(東京大学 理事・副学長)、山中俊治(東京大学 特別教授)、筧康明(東京大学 大学院情報学環教授)、北野宏明(ソニーグループ株式会社 執行役専務CTO 北野宏明)、戸村朝子(ソニーグループ株式会社 コーポレートテクノロジー戦略部門 コンテンツ技術&アライアンスグループ 統括部長)が、パネルディスカッションを実施しました。(※) 記事中の所属・役職等は取材当時のものTEXT: Akihiko Mori PHOTOGRAPH: Timothée Lambrecq PRODUCTION: VOLOCITEE Inc.目次: 論理と感覚を互いに濁らせず、共存させる…
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2024/02/22

科学とデザインの実験室から|山中俊治

科学とデザインの実験室から|山中俊治 文理融合の研究と、アートやデザインなどの表現を実践する大学院、情報学環を中心とする東京大学、および「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」を存在意義に掲げるソニーグループが連携し「越境的未来共創社会連携講座」(通称: Creative Futurists Initiative)をスタートさせました。同講座は社会を批判的に読み解き、アートとデザイン、そして工学のアプローチによって問題提起・課題解決を行う人材を育成することを目的としています。 2024年2月22日(木) に東京大学情報学環・福武ホールで開催された同講座の設立記念シンポジウムで、山中俊治(東京大学 特別教授)が基調講演を行いました。(※) 記事中の所属・役職等は取材当時のものTEXT: Akihiko Mori PHOTOGRAPH: Timothée Lambrecq PRODUCTION: VOLOCITEE Inc.目次: 科学とデザインにおける越境 Cyclops Morph Hallucigenia Project Ridroid CanguRo RULO…
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2024/02/22

越境し行動するための研究と実践「Act Beyond Borders」|北野宏明

越境し行動するための研究と実践「Act Beyond Borders」|北野宏明 文理融合の研究と、アートやデザインなどの表現を実践する大学院、情報学環を中心とする東京大学、および「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」を存在意義に掲げるソニーグループが連携し「越境的未来共創社会連携講座」(通称: Creative Futurists Initiative)をスタートさせました。同講座は社会を批判的に読み解き、アートとデザイン、そして工学のアプローチによって問題提起・課題解決を行う人材を育成することを目的としています。 2024年2月22日(木) に東京大学情報学環・福武ホールで開催された同講座の設立記念シンポジウムで、北野宏明(ソニーグループ株式会社 執行役専務兼CTO)が基調講演を行いました。 (※) 記事中の所属・役職等は取材当時のものTEXT: Akihiko Mori PHOTOGRAPH: Timothée Lambrecq PRODUCTION: VOLOCITEE Inc.目次: 行動し、人間の想像を拡張する 越境し、行動する研究所・ソニーCSL 行動し、人間の想像を拡張する筧:ソニーグループ株式会社 執行役専務兼CTOの北野宏明様から基調講演をいただきます。北野様は、多様な事業から成るソニーグループのR&Dを指揮され、株式会社ソニーリサーチ代表取締役CEOおよび株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)の代表取締役社長も務められています。カーネギーメロン大学で大規模データ駆動型AIシステムを超並列計算モデルで構築する研究に取り組み、国際人工知能学会のComputers and…
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2024/02/22

Creative Futurists の素養としての人文・社会科学、ビジネス、そして社会課題|パネルディスカッション

Creative Futurists の素養としての人文・社会科学、ビジネス、そして社会課題|パネルディスカッション 文理融合の研究と、アートやデザインなどの表現を実践する大学院、情報学環を中心とする東京大学、および「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」を存在意義に掲げるソニーグループが連携し「越境的未来共創社会連携講座」(通称: Creative Futurists Initiative)をスタートさせました。同講座は社会を批判的に読み解き、アートとデザイン、そして工学のアプローチによって問題提起・課題解決を行う人材を育成することを目的としています。 2024年2月22日(木) に東京大学情報学環・福武ホールで開催された同講座の設立記念シンポジウムで、筧康明(東京大学 大学院情報学環教授)、田中東子(東京大学 大学院情報学環教授)、渡邉英徳(東京大学 大学院情報学環教授)、高木聡一郎(東京大学 大学院情報学環教授)、シッピー光(ソニーグループ株式会社 サステナビリティ推進部 部門長)が、パネルディスカッションを実施しました。(※) 記事中の所属・役職等は取材当時のものTEXT: Akihiko Mori PHOTOGRAPH: Timothée Lambrecq PRODUCTION: VOLOCITEE Inc.目次: テクノロジー全盛の現代にこそ、人文・社会科学が必要 …
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2024/02/22

ソニーが取り組むサステナビリティとインクーシブデザイン|シッピー光

ソニーが取り組むサステナビリティとインクーシブデザイン|シッピー光 文理融合の研究と、アートやデザインなどの表現を実践する大学院、情報学環を中心とする東京大学、および「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」を存在意義に掲げるソニーグループが連携し「越境的未来共創社会連携講座」(通称: Creative Futurists Initiative)をスタートさせました。同講座は社会を批判的に読み解き、アートとデザイン、そして工学のアプローチによって問題提起・課題解決を行う人材を育成することを目的としています。 2024年2月22日(木) に東京大学情報学環・福武ホールで開催された同講座の設立記念シンポジウムで、シッピー光(ソニーグループ株式会社 サステナビリティ推進部 部門長)が関連活動の紹介をしました。(※) 記事中の所属・役職等は取材当時のものTEXT: Akihiko Mori PHOTOGRAPH: Timothée Lambrecq PRODUCTION: VOLOCITEE Inc.目次: ソニーグループのサステナビリティ テクノロジーを活用したサステナビリティへの取り組み パートナーシップによる社会課題への取り組み ソニーグループのサステナビリティ私の方からはソニーのサステナビリティの取り組みを少し紹介をさせていただきたいと思います。まずソニーという会社がどんな事業をやっているかというところですが、もしかするとまだ日本では「エレクトロニクスの会社」というイメージが強いかもしれません。しかし実際は、プレイステーションを中心とするゲーム・ネットワークサービスの事業、それから音楽、映画といったエンターテインメント事業、このようなエンターテイメント事業が今は売り上げの半分以上を占めております。これに加えてエレクトロニクスの事業、半導体の事業、そして日本では金融領域の事業と、非常に幅広い事業をグローバルで展開している会社でございます。ソニーのパーパスは今ご覧いただいてますように、「クリエイティビティとテクノロジーの力で世界を感動で満たす。」というものです。ソニーが社会に存在している理由ですね。また、企業活動を通じて私たちが目指すところは何なのかといったことを表したものです。ソニーのサステナビリティに対する考え方というのも、このパーパスをベースにしたものになっています。この人々が感動で繋がるということを目指していくためには、まず私たちが安心して暮らせる社会、健全な地球環境があることが大前提です。そして人を取り巻く様々なステークホルダーとの対話を通じて持続可能な社会を目指し、活動しています。世の中には非常に多岐にわたる社会課題があります。時代の変化であったり、あるいは社会環境、ソニー自身の事業活動の変化の中でも変わっていきます。その中で、ソニーとして何を重視して取り組んでいくかということを決めていくというプロセスがあります。それが「マテリアリティ分析」というものです。簡単に説明しますと、ソニーに重要性がある課題とはどういったものかという視点と、社会におけるステークホルダーにとって重要な課題というのは何かという2つの視点を掛け合わせ、最も重要な課題を抽出していくというプロセスです。これは1年半ほど前に実施したものになりますが、ソニーグループとしては現在、気候変動、ダイバーシティエクイティ&インクルージョン、人権の尊重、そしてサステナビリティに貢献する技術からなる、4つのテーマを重要課題として取り組みを進めております。テクノロジーを活用したサステナビリティへの取り組み今回の講座に関連するような私たちのサステナビリティの取り組みの事例を紹介させていただきたいと思います。1つ目がアクセシビリティへの取り組みです。これは私たちの製品サービスが、障害のある方を含む全ての方に使いやすいものになるようにということで取り組んでいるものです。「インクルーシブデザイン」を取り入れて商品開発をしていく取り組みで、ご覧いただいてるのはそのいくつかの事例です。特に昨年から今年にかけて話題になったのは、プレイステーションのコントローラーです。従来のコントローラーでは、肢体不自由な方をはじめ、操作ができない方がいます。そこで自由自在にカスタマイズし、拡張することでさまざまなユーザーが使えるようなコントローラーを昨年末から販売しています。こういった製品を開発していくにあたり、やはり重要だと考えているのがインクルーシブデザインです。これは製品サービスの企画設計それから開発の初期段階から、当事者の方を巻き込んでいくというプロセスになります。先ほどご覧いただいた製品やサービスはそういったプロセスを経て世に出ているものですが、今はグループ全体でこのインクルーシブデザインを推進しようということで取り組んでおります。今ご覧いただいているのは、インクルーシブデザインをまずは体験してみようということで、研修のような形でワークショップを実施しています。こちらのワークショップでは、あるテーマをもとにした実際のグループワークの中で、障害のある方にリードいただき、街を歩いてみたり、あるいは電車に乗ってみたりします。当事者の方々の視点を体感するというものです。「障害のある方はこういうところが不便なのではないか」、あるいは「こういった機能があれば便利なのではないか」と、当事者ではない自分たちが勝手に考えるのではなく、開発のプロセスに当事者を巻き込んでいくことを通し、気づきや新しい創造に繋がるのではないかと考えています。実際こうしたプロセスを経て開発された機能の一つにXperia、スマートフォンの写真撮影の機能があります。水平を感知するというもので、水平がずれると、音で知らせたりし、目が見えない方でも写真撮影ができるようにするという機能です。しかし、目が見える方にとっても、この機能は非常に便利に使えるものです。つまり、インクルーシブデザインによる機能や製品サービスは、より多くの方にとって便利な機能になるのではないか、と考えております。パートナーシップによる社会課題への取り組みもう1つは、パートナーシップによる社会課題への取り組みです。私たちはいろいろな社会課題に取り組む上で、やはり企業だけでは課題解決に繋がらないということで、専門であるNGOやNPOとの連携を非常に重視しています。今ご覧いただいてるのは、世界自然保護基金WWFです。パンダのマークで有名な、環境領域の国際NGOですが。こちらの団体とのパートナーシップです。これはちょうど今週発表になった事例ですが、インドネシアのスマトラ島です。非常に多くの森林が失われている中で、森林の再生活動を彼らは行っています。ここにソニーのシネコカルチャー、生態系を拡張していくような農法を導入することで、森林再生活動をより効果的にしていこうというパイロット事業として今年始まったものです。この後のレセプションでシネコカルチャーで作られたお野菜も提供されると伺っております。こちらで最後になりますが、セーブザチルドレンという団体とのパートナーシップです。セーブザチルドレンも国際NGOで、ソニーは災害の緊急支援や復興支援といった形で長年パートナーシップを組んでおります。彼らは災害に強いコミュニティを作りたいということで、インドでレジリエントのコミュニティ作りというものに取り組んでいます。この現場に、ソニー社員を連れていこうということで昨年の4月に初めて行った取り組みです。公募で募って8名の社員の方に現地に行っていただきました。ここで実際にどういった社会課題があるのか、ソニーとして取り組むのであればどういった可能性があるかといったことをワークショップ等を行いながら、検討していくプロセスを行っています。こういった形で私たちはNGOとの連携、あるいは社会課題の現場と企業を繋ぐといったことを通じて、サステナビリティに取り組んでいこうと考えています。今回の講座を通じて、こういったところに参加いただくような機会も、もしかすると検討できるのではないかと考えているところです。
CFI Kickoff Symposiumイベントレポート
2024/02/22

越境に求められる「デフレーミング」|高木聡一郎

越境に求められる「デフレーミング」|高木聡一郎 文理融合の研究と、アートやデザインなどの表現を実践する大学院、情報学環を中心とする東京大学、および「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」を存在意義に掲げるソニーグループが連携し「越境的未来共創社会連携講座」(通称: Creative Futurists Initiative)をスタートさせました。同講座は社会を批判的に読み解き、アートとデザイン、そして工学のアプローチによって問題提起・課題解決を行う人材を育成することを目的としています。 2024年2月22日(木) に東京大学情報学環・福武ホールで開催された同講座の設立記念シンポジウムで、高木聡一郎(東京大学 大学院情報学環教授)が関連活動の紹介をしました。(※) 記事中の所属・役職等は取材当時のものTEXT: Akihiko Mori PHOTOGRAPH: Timothée Lambrecq PRODUCTION: VOLOCITEE Inc.情報学環の高木と申します、よろしくお願いいたします。まだ私のところでは今回のプロジェクトが始まっているわけではないため、これまでやってきたことの中から、今回の越境的未来共創社会連携講座との関わりについてお話をしていこうと思います。簡単な自己紹介ですが、情報経済学やイノベーションを中心に研究を行っており、ブロックチェーンの研究にも携わっています。この情報学環の中にブロックチェーン研究イニシアティブを立ち上げ、研究をしています。また、筧先生からもお話がありましたが、アート思考の研究をしています。芸術家がどんなプロセスで作品を作ってるのか、何を考えながら作ってるのか、どこから着想を得ているのか、そういったことをビジネスのアイディア創出の場面で応用できないだろうか、といった研究も行っています。専門は情報経済学やデジタル経済論、イノベーションマネジメントで、今回のメンバーの中では最もビジネスの現場に近いところで活動しています。今日はその中の「デフレーミング」という概念を中心にお話しできればと思います。デフレーミングは私が作った造語でして、既存の枠組み、つまりフレームが壊れるというような意味を持った言葉です。 その中に3つの要素があります。 1つが分解と組み換えというものです。例えば通信の領域や金融が一緒になり、1個のアプリの中でチャットもでき、お金も送れる。そういったサービスがどんどん生まれてきていると思います。あるいは、もしかするとメディアの中に、コマースつまり小売の機能が入っていったりしています。そんな形で、業界の中にあったいろんな要素がバラバラになり、もう1回組み替えられていく。そういったプロセスを、分解と組み換えと呼んでいます。 2つ目の要素である個別最適化は、同じものを作って大量に売るのではなく、ひとりひとりに合った商品やサービスを展開していく、いわゆるカスタマイズです。これは個別最適化というのです。 それから3つ目が、個人化というところで、これはいわゆる組織の看板において組織の一員として働くだけではなく、個人がより自律的に、個人の看板、あるいは個人の信頼で仕事をしていける、そういった要素が増えてきたことを個人化と呼んでいます。この3つ、異なることを言ってるようですが、根は同じで、ITによってさまざまな取引に関わるコスト、フリクションが少なくなってきたことによりこうした現象が出てきているのです。先ほど申し上げたブロックチェーンは、個人化の一つの表れとして位置づけて研究をしているところです。現在取り組んでいるのは、デフレーミングという概念をもとに、企業の中での事業創造、新しいビジネスモデルを考えるときのフレームワークや方法論化です。例えば教材のようなワーク、レクチャー、グループディスカッションするときのワークシートのようなものを開発しています。ワークシートを埋めていきながらディスカッションすることを通して、ビジネスのアイディアを創出するものです。そういった活動を行っています。通常は全体で6回ほどのワークショップを行い、さまざまなアイディアを生み出していくことを行っています。例えば慶應の丸の内シティキャンパスで実施した際には、さまざまな企業の方が集まり、異業種の方が一緒に議論することをしています。もう一方で、インハウスで行っている場合もあり、同じ会社の人がより深く議論するというものです。より深く議論したいのか、異業種の人も入れて創発的に議論したいのか、そういった目的によってどのようなメンバー構成にすればいいか、といった知見が得られてきているところです。それから最後にこれは2週間ほど前、全く同じこの会場で実施した、先ほど申し上げたブロックチェーンの関係の「DAO UTokyo」というカンファレンスです。スタンフォード大学などと主催しましたが、「自律分散型組織」といって、企業でもなく、リーダーもいないようなブロックチェーンを使ったネットワークで構成する金融サービスや、新しいサービスを生み出していくことを目的としたものです。その中で一つ事例をお話すると、「分散型ID」という領域が、国によっては非常に注目されています。自分のアイデンティティは誰に証明してもらうことがいいのか、という問題を扱います。日本にいるだけでは、そもそもそれが問題なのかがわからなかったりしますが、国が異なり、文化的なコンテクストが異なると、問題に気がつきます。そうした異なった文化的コンテクストの人と交わることによって、先ほどから出ている批評的視点が得られるのではないかと思います。 私の方からは、イノベーションを起こしていくときの仕掛けが重要だということや、目的に応じたメンバーの設定から、異文化の人と交流することによる批評的な視点の重要性について考えてみたいと思っています。このプロジェクトの中では、実際の具体的なビジネスにどうつなげていくかを取り組んでいけたらと思っております。以上となります。ご清聴ありがとうございました。