誰でもできるエスノグラフィーのはじめかた|CFD002(後編):藤田結子(大学院情報学環准教授) 東京大学×ソニーグループ株式会社による「越境的未来共創社会連携講座」(通称 Creative Futurists Initiative:CFI)から生まれた新企画「Creative Futurists Dialogues」。第二回目となる今回のテーマは「現代エスノグラフィー」。ゲスト講師として情報学環から藤田結子准教授を迎え、エスノグラフィーの実践ワークショップを行った。メモの取り方、メモをもとにつくるフィールドノートという資料を作るための具体的な手順とポイントについて、実践とフィードバックを通じてレクチャーされ、今後のCFIの研究活動にもつながる方法論が共有された。前編はこちら。(※) 記事中の所属・役職等は取材当時のものTEXT: Nanami Sudo PHOTOGRAPH: Yasuaki Kakehi Laboratory PRODUCTION: VOLOCITEE Inc.目次: 主観と客観は明確に分ける。正確なメモをつくる方法とは ある一つの出来事でも、調査者によって異なる物語が残る 現場の再現性を高めるデータをつくるポイント 主観と客観は明確に分ける。正確なメモをつくる方法とは藤田結子(以下、藤田):今日はさわりだけですが、エスノグラフィーの学術における期間を設定するための理論的方法は、明らかにしたいことについて十分なデータが集まり、もうこれ以上新しいことは出てこないだろう、と思ったら終了になります。なので1年以上必要と言われることが多くて、5年、10年の調査もたくさんあるんです。だけれども、ビジネスなどが関わってくると、予算や期限のために調査期間は1日から数週間と比較的短くなってしまいます。その中でできる範囲でやらなければならない時に、どうやるのか? ということを見ていきましょう。まず最初に、現場に入る(エントリする)というのはすごく難しいんですね。みんな苦労するんですけれども、入って調査していいという許可を得ることがすごく難しい。なぜなら、知らない人が自分のフィールドにやってきて観察されるというのは、少し思うところがありますよね。ですが企業がやる場合は、お金を払ったりすることもできるので、エントリしやすい側面もあるのかなと思います。 次に、参与観察を行ってメモをとった後に、家やカフェでもう一度フィールドノートを書き上げるという作業をします。色々な実験でデータというものは取られていますが、エスノグラフィーにおいては、これこそがデータになるんですね。ある程度データがたまったら、そこからフォーマル・インタビューでさらに聞きたいことを聞いていきます。その後の5番目が抜けがちなものだと思うんですけれども、ある程度たまったフィールドノートを、データとしてコーディング等を用いながら分析します。データ分析には色々な方法、ソフトウェアがあるんですけれども、すごく細かくコーディングをして、データから叩き上げるような流派もあれば、テキストを繰り返し読んで理解しようというタイプの人もいます。それは研究にもよりますが、色々なタイプがあって、メリット、デメリットについて色々な議論があります。今日の実践ではデータ分析はやりませんが、最後の手順としてはそれを元に報告書、レポートを書くということですね。今日は手順の2番目と3番目を実際にやってみたいと思います。フィールドワークの現場では、まずメモを取り、そのメモをもとにフィールドノートを作ります。あとは、インタビューの書き起こしや、他にもよくあるのはフィールドワークに関して事実とは別に、自分自身が感じたことについて日記を書くというものがあります。なぜなら、その事実と自分の主観を切り分けられる前提、つまり「客観性」の担保がもとになるということです。そうでなくても、自分が見たものと自分の判断とを分けることができます。では、ここからボランティアのお二人に来てもらって、お話をしたり、遊んだりしてもらいます。その様子を皆さんで観察して、メモをとります。メモは文章ではなく、箇条書きで良いです。他にはスケッチやデッサンも良いと思います。後でそれを見て、より詳しいフィールドノートのレポートを書くときのことを思い浮かべてください。そして、人間というのは常にメモを取っていないと、さっき言ったばかりのことですら忘れてしまうものなので、とにかく全部メモを取ることが必要です。ヒントとなる単語でも良いです。 このような教室ではメモを取りやすいですが、メモを書きにくい現場、例えばクラブでエスノグラフィーを行う時に、みんなが踊っている中ではなかなかメモはできない。そういう時はトイレとかに行ってこっそり書く。本当にそう思います。それを研究者たちは真面目に議論しているんです。メモはすごく重要で、そこまでして、この現場で起こった相互行為や振る舞い、会話について、詳細を書き留める時間がないので、後で思い出すためのヒントとして書いていくんです。…





